吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた【吸血鬼の元祖解説⑦】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
⑦この記事

  • ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛
  • 特にフランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」、勝手な続編も
  • フランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」の劇
  • 吸血鬼の劇はあの大デュマの運命を変えた
  • 劇でも「吸血鬼」と「フランケンシュタイン」は縁がある
  • オペラやバレエまでに発展したポリドリの「吸血鬼」
  • 補足① フェヴァル作「吸血鬼の息子」は、1820年作ではない?
  • 補足②「吸血鬼のお年玉」は正しい翻訳なのか?

ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛

 前回の続きより解説していこう。今回はポリドリの「吸血鬼」から派生した作品群を紹介していくが、その物語の内容については後日、ポリドリの「吸血鬼」と共に対比させる形で紹介していきたい。今回は、ポリドリの「吸血鬼」から派生した作品が作られた歴史的な流れと、そのエピソードを中心に解説していく。


 ポリドリの「吸血鬼」は編集者の思惑により、バイロンの作品として発表されてしまった。ポリドリ、バイロン双方から正しい作者を公開するように要請があったにも関わらず、修正はされなかった。良くも悪くも有名なバイロンの作品とした方が売れると思ったためで、実際ポリドリの「吸血鬼」はイギリスではその年の内に7版(註1)も重版がかかるほど、人気を博した*1。前回も説明したが、その人気は国内にとどまらず、ヨーロッパ中に瞬く間に広まった。まずフランスに伝播、アンリ・ファーベルが「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説(Le Vampire, nouvelle traduite de l'anglais de lord Byron)」という題名で翻訳した*2*3*4

*1:矮小化されるルスヴン卿 --1820年代の仏独演劇におけるヴァンパイア像--
森口大地 京都大学大学院独文研究室 2020/01 p.2

*2:「矮小化されるルスヴン卿」 森口大地 p.5

*3:"Le Vampire (nouvelle)" 仏語wikipedia記事

*4:種村季弘「吸血鬼幻想」: 薔薇十字社版(1970) p.131 河出文庫版(1983) p.172
種村は、アンリ・ファーベルは「ルスヴン卿」というタイトルにしたと説明しているが、森口は「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説」というタイトルにしたと述べる。森口の解説を裏付ける実物の画像を見つけたことから、森口の説明が正しいと判断した。

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最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち【吸血鬼の元祖解説⑥】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
⑥この記事
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

  • 当時の出版事情:作家の力は弱かった
  • 盗作疑惑をかけられるポリドリ、そして自殺
  • バイロン卿と吸血鬼ルスヴン卿、その共通点

当時の出版事情:作家の力は弱かった

 前回”最初の吸血鬼””フランケンシュタイン”が同時に生まれるきっかけとなった歴史的一夜、ディオダティ荘の怪奇談義について解説した。今回からはいよいよ、その怪奇談義によって生まれた”最初の吸血鬼小説”について解説していこう。とくに今回は、日本の書籍や論文ではこれまで紹介されたことがないエピソードを紹介していくので、ご期待頂きたい。

 前回説明したようにポリドリが書いた「吸血鬼」は、どういう訳か作者はポリドリではなく、ポリドリが侍医として仕えていた主人のバイロン卿の名で出版されてしまった。この事情を知るには、わき道に逸れてしまうが当時の出版事情について、ざっくり知っておく必要がある。荒俣宏のアンソロジー「怪奇文学大山脈Ⅰ巻 西洋近代名作選 19世紀再興篇」:東京創元社(2014)において、荒俣が当時の西欧における出版事情について詳しく解説している。そしてせっかくなので、興味深いエピソードもついでに紹介しておこう。

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『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」【吸血鬼の元祖解説⑤】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
⑤この記事
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

  • 最初の吸血鬼小説の作者とバイロン卿との出会い
  • ディオダティ荘に集結するバイロン一行
  • 歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
  • 詩人バイロン卿と吸血鬼ルスヴン卿の共通点
  • 【補足①】 ディオダディ、それともディオダティ?
  • 【補足②】怪奇譚を書くように提案したのはバイロンではない?
  • 【補足③】ディオダティ荘の怪奇談義の時系列について
  • ディオダティ荘の怪奇談義をモチーフとした劇や映画について

最初の吸血鬼小説の作者とバイロン卿との出会い

 前回は、バイロンが祖国追放となり、近親相姦の関係となっていた最愛の姉・オーガスタと涙のお別れをした11時間後に作った愛人・クレア・クレアモント*1に、スイス・ジュネーブへ行くことを示唆したところまで解説した。今回はいよいよ、「最初の吸血鬼」小説が生まれたきっかけであるディオダティ荘の怪奇談義について解説する。

 1816年4月、ついにバイロンが祖国を出る日がやってきた。随行者は、いつも身近に仕えていた忠僕フレッチャー、美少年の小姓ラッシュトン、雇ったスイス人の世話係、そして今回の主役、最初の吸血鬼小説を書くことになるバイロンの侍医、ジョン・ポリドリである*2

*1:クレアは何度か改名しているが、この記事では分かり易くするため、最後に改名したクレアで統一する。

*2:楠本晢夫「永遠の巡礼詩人バイロン」:三省堂(1991) p.214

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バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放【吸血鬼の元祖解説④】

シリーズ目次<(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
④この記事
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

  • 実の姉と近親相姦の関係になるバイロン
  • バイロン卿による吸血鬼の詩「異教徒」
  • バイロンの娘は世界で最初のプログラマー
  • 離婚、そして国外追放へ

実の姉と近親相姦の関係になるバイロン

 前回の続きより解説する。不倫関係にあったキャロライン・ラムとどうにか分かれることができた後、バイロンは虚無感に襲われる。 そうした最中1813年6月のある日、ロンドンにいるバイロンのもとに腹違いの姉オーガスタ・リーが、シックス・マイル・ボトムより押しかけてきた*1

オーガスタ・リー
オーガスタ・リー
(1783~1851)
日本語wikipedia 英語wikipedia

 姉のオーガスタは、夫のリー大佐から家庭内暴力を受けていた。さらに経済的に困窮していた。夫がギャンブル狂いで競馬にハマっていたからだ。幼児3人抱えているので家計が持ちこたえられなかったので、弟のバイロンのもとに逃げてきた。この時まだ29歳。そしてバイロンに献身的に尽くす。彼女の官能的な優しさはバイロン好みでもあった*2

 ここまで言えば察せられたことだろう。バイロンは実の姉オーガスタと愛し合うようになる。それは傍目からみても恋人同士にしか見えないとか、愛人関係は公然たる事実だと言われるほどであった*3*4。そしてナポレオンが退位した8日後の1814年4月14日、オーガスタは娘のエリザベス・メドラ・リーを産む。この女児は姓が一応夫のリーとなっているが、世間ではバイロンの子と噂された*5。  メドラというミドルネームは、バイロンの作品「The Corsair:海賊」に登場する美しい愛人メドラの名前であるから、このあたりからも噂を助長する羽目になったのだろう。

*1:楠本晢夫「永遠の巡礼詩人バイロン」:三省堂(1991) pp.120-121

*2:同上 p.121

*3:同上  p.121

*4:「オーガスタ・リー」日本語wikipedia記事

*5:「永遠の巡礼詩人バイロン」 p.137

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最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い【吸血鬼の元祖解説③】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
③この記事
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

  • 最初の吸血鬼小説の作者は、本人は無名だが親戚は有名
  • 最初の吸血鬼の作者、ジョン・ポリドリ
  • 事実は小説より奇なり:詩人バイロン卿
  • 幼少期のバイロン卿:逆境にめげない主人公
  • 放蕩三昧する大学時代のバイロン 男色にも目覚める
  • バイロンの人生に大きく影響を与えたグランドツアー
  • ある日、目が覚めたら有名人になったバイロン

最初の吸血鬼小説の作者は、本人は無名だが親戚は有名

 前々回の記事で、最初の吸血鬼小説はジョン・ポリドリ「吸血鬼」という小説で、吸血鬼ルスヴン卿こそが最初の吸血鬼であると説明した。今回はその”最初の吸血鬼小説”を作り上げた、ジョン・ポリドリについて解説していこう。そしてポリドリを語るには、彼が侍医として仕えた、詩人バイロン卿も解説も必須。よって彼の主人、バイロン卿についても詳しく解説していこう。

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吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある~その内容と翻訳本の紹介~【吸血鬼の元祖解説②】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
②この記事
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

 ブラム・ストーカーの小説に登場するドラキュラという吸血鬼は、今やヴァンパイアの意味で誤用されるほど、吸血鬼(ヴァンパイア)の代名詞的存在となったが、ドラキュラは吸血鬼作品としては後発作品であり、ドラキュラ以前にも吸血鬼作品は多数存在していることを、前回の記事で紹介した。当ブログにお越し頂いた方々の中には、是非とも読んでみたいと思われる方もいらっしゃることだろう。今回はそんな「ドラキュラ以前の吸血鬼小説」を、分かる範囲で簡単に内容の紹介と、日本語訳があるものに関してはその邦訳本を紹介していく。簡単な紹介にとどまるが、それでも19世紀の吸血鬼像は今とは違うということ、吸血鬼はもっと自由に設定していいというのが、何となくお分かりになるかと思う。ということで、まずは前回記事でも紹介した、マシュー・バンソン「吸血鬼の事典」(1992)に掲載されていた吸血鬼作品年表を元に、私が追記した年表をご覧頂こう。赤線は、ドラキュラの系譜とも言うべき重要な作品を表す。

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吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖!【吸血鬼の元祖解説①】

シリーズ目次(クリックで展開) ①この記事
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた

序章

 ご挨拶のページでも申し上げましたが、私は2021年5月1日にニコニコのブログサービス「ブロマガ」のサービス終了に伴い、このはてなブログへと引っ越ししてきました。そのブロマガでは「吸血鬼元祖解説シリーズ」の連載途中でした。もちろん連載途中の記事は全部引っ越しできているのですが、今回新たに作り直すことにしました。理由は、このはてなには脚注機能があるからです。以前の私の記事をご覧になった方はお分かりでしょうが、私の記事はとにかく参考文献を細かく明示しています。ですがブロマガには脚注機能はなく*1、仕方がなく文章の合間に脚注を表記していました。それが脚注機能で文章途中に差し込む必要がなくなり、また脚注番号を入力する手間もなくなり、作業効率がよくなるという恩恵も受けられるようになりました。

 連載途中の最新の記事から脚注を使ってもよかったのですが、連載中の記事で表記の仕方が変わるが嫌だったので、連載途中のこのシリーズは最初から作り直すことにしました*2。 ということで前置きはこれぐらいにして、ブロマガより改めて「吸血鬼元祖解説シリーズ」を始めていきます。

*1:HTMLタグを駆使すれば脚注もできるらしいが、いちいちコード打つ必要があり非常に面倒

*2:本当は全部書き直したいけれど、あの文章量を書き直すのは億劫なので、書き直すのはこれだけにします。

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