吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

MENU

「ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集」書評②:解説本でも紹介されたことがない吸血鬼作品集

前回の記事 www.vampire-load-ruthven.com


前回は森口大地編訳「ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集」幻戯書房(2024年)のうち、エルンスト・ラウパッハの「死者を起こすなかれ」をレビューした。今回は残りの作品について簡単なレビューをしていきたい。前回投稿後、断続的な出張・残業・身内の不幸などが続いたため前回より開いてしまい、非常に申し訳ありません。

続きを読む

「ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集」書評①:ラウパッハの「死者を起こすなかれ」がついに邦訳されました

ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集
「ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集」


お久しぶりです。今回は2024年1月29日に幻戯書房より刊行された「ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇譚集」のレビューを、数回にわたり行っていきたいと思います。これはブラム・ストーカーの「ドラキュラ(1897年)」より以前の、19世紀のドイツで刊行された吸血鬼小説集めたもので、日本の吸血鬼解説本でも紹介されたことがない、非常にマニアックな古典アンソロジー集となります。翻訳者は当ブログでは何度もご紹介させていただいている、ドイツのヴァンパイア文学*1の研究家である京都大学 森口大地氏によるもの。それぞれの作品の解説や、本邦初公開の貴重な情報も紹介されており、研究者らしく典拠を事細かに提示しているので、情報の正確性にも富んだものとなっているのも、個人的に一押しな一冊です。


順番にそれぞれの作品感想を述べていきたいと思うのですが、この記事ではとくに個人的な思い入れの強い、エルンスト・ラウパッハの「死者を起こすなかれ」について述べていきたいと思います。

*1:今回のアンソロジーや森口氏の論文「矮小化されるルスヴン卿 --1820年代の仏独演劇におけるヴァンパイア像--」(2020) p.1を見ればわかるように、森口氏は研究の場面においては「吸血鬼」という単語は使うべきでないという立場を取っている。詳細は本アンソロジーや論文を参照。

続きを読む

「現代的な吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が生まれるきっかけとなった「幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集」が発売されます

幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集
幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集


www.vampire-load-ruthven.com www.vampire-load-ruthven.com


最近かなり忙しくて、動画もブログも更新が止まってしまっています。今日は生存報告がてら、一つお知らせを。「最初の吸血鬼はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」ではなくて、ジョン・ポリドリの「吸血鬼」に登場するルスヴン卿」であることは、当ブログをずっとご覧になっている方々は言うまでもないと思います。ポリドリの「吸血鬼」が生まれたのはディオダディ荘の怪奇談義と呼ばれる一夜がきっかけです。ある晩、詩人バイロン卿の提案により、メンバーでフランス語訳されたドイツの怪奇譚集を朗読、その後バイロンが「一つ、自分たちでも怪奇譚を書いてみよう」と提案しました。


その結果、ポリドリは「最初の吸血鬼」となる小説「吸血鬼」*1を、そしてメンバーの一人であったメアリー・シェリーはかの有名な「フランケンシュタイン」を生み出すこととなりました。バイロンの戯れにより、西洋3大モンスターと言われる「吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が一夜のきかっけで生まれたので、この出来事自体が映画や舞台になるほどです。詳しい経緯は上記に貼った過去記事をご覧ください。


さて、今回のお知らせとは、ディオダディ荘の怪奇談義と呼ばれる一夜で、バイロンが「自分たちでも怪奇譚を書こう」と提案するきっかけとなった、ドイツの怪奇譚集の日本語訳が、なんと明日2023年7月24日に、国書刊行会より刊行されます。


www.kokusho.co.jp


この怪奇譚集がなければ、「吸血鬼」も「フランケンシュタイン」も生まれなかったかもしれない一冊の初の邦訳化。当ブログに起こしになるような方には、ぜひみて頂きたい一冊です。値段はお高いですが。せっかくなので、この怪奇譚集にまつわる話をいくつか紹介していきます。

*1:このときポリドリが作ったのは、正確には「頭が骸骨になった女の物語」であるのだが、この時バイロンが作った小説に触発されて後に「吸血鬼」を作ったので、吸血鬼が生まれるきっかけとして紹介される。

続きを読む

【書評】幻の吸血鬼小説「吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴」(国書刊行会)第一巻の感想

吸血鬼ヴァーニー
吸血鬼ヴァーニー第一巻


2023年3月末、国書刊行会より「吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴」がついに刊行されました。この長編、もしかしたら一生邦訳にお目にかかれないと思っていた作品だったのですが、まさかこうして全訳されるなど夢にも思っていませんでした。一応、ツイッターで匂わせのツイートや、前回レビューした「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」には刊行予定であることがアナウンスされてはいましたが、実際こうして手に取ったときは感無量でした。今回はそんな吸血鬼ヴァーニーの第一巻のレビューをしていきます。ですがその前に、なぜ私がこれほどまでに待ち望んだのかを理解してもらうべく、これまでのヴァーニーという作品の立ち位置などを簡単に、まずは説明していきたいと思います。吸血鬼ヴァーニーもいずれは当ブログで詳しく取り上げる予定です。いつになるかはわかりせんが。あと解説の都合上、第一巻以外のネタバレもしていきますので、気になる方はご注意を。

続きを読む

【書評】「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」の感想

怪奇幻想の文学2 吸血鬼

今回はレビューしようとしていてずっと機会を逃していた、2022年12月発売の新紀元社より刊行された「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」の感想を簡単に述べていこうと思います。2022年は5月に「吸血鬼ラスヴァン 英米古典吸血鬼小説傑作集」、8月には「吸血鬼文学名作選」が刊行されており、2022年は吸血鬼イヤーともいうべき程、古典吸血鬼小説のアンソロジーが刊行されました。ということで2022年を締めくくる本アンソロジーをレビューしていきたいと思います。レビューの性質上、大なり小なりネタバレがあるので、その点留意してご覧ください。


続きを読む

「幻想と怪奇13」にて商業誌デビューしました:寄稿した内容の補足、典拠の紹介

H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照
H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照

私は2015年よりニコニコ動画で、2021年よりブログで吸血鬼解説活動を続けてきましたがこの度、商業誌に解説記事を寄稿することになりました。2023年3月2日発売「幻想と怪奇13 H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照」(新紀元社)の自由寄稿枠に、私の吸血鬼解説が掲載されております。こうした商業誌に寄稿するなど、当然初めての経験です。嬉しいやら恥ずかしいやらで形容しがたい気持ちですが、やっぱり商業誌に掲載できたことは、こうして啓蒙活動続けてきて良かったな思った瞬間でした。


ノセールというハンドルネームはニコニコ動画で投稿する上で、誰も名乗ってなさそうな名前にしようと思って適当に作ったものですが、流石に真面目な商業誌に載せるにはいささか似つかわしくないと思い、今回新たに白沢圭という筆名を名乗ることにしました。今後は両方で名乗っていきますので、お好きなようにお呼び下さい。ちなみに由来はニコニコ動画の視聴者ならすぐにお分かりになったかと思います。動画では東方projectに登場する上白沢慧音(かみしらさわけいね)が吸血鬼のスカーレット姉妹に吸血鬼の歴史を教えると言うスタイルをとっていますが、その上白沢慧音からとっています*1。一部の方には怒られそうですが、私の動画では顔役とも言えるキャラですので、彼女にあやかることにしました。


今回は「幻想と怪奇13」をご覧頂いた方向けに、今回の記事を作る上で参考にした主な典拠の紹介と、余談として、私がなぜ今回「幻想と怪奇」に寄稿することになったのか、そのあたりを紹介していこうと思います。今回の記事の内容は「幻想と怪奇13」をご覧になったという前提で話を進めていきます。

*1:東方projectを知らない方に簡単に説明すると、東方Projectとは同人シューティングゲームの一連のシリーズのこと。上白沢慧音は普段は歴史の編纂をしており、寺子屋でも授業を受け持っている。スカーレット姉妹は吸血鬼。東方は二次創作が盛んで、私のニコニコ動画の解説も東方Projectの二次創作という形をとっている。東方だと霊夢と魔理沙の「ゆっくり解説」が有名で、霊夢と魔理沙の主人公コンビが主流。逆に敵キャラのスカーレット姉妹、とくに慧音を出すのはゆっくり解説としてはあんまり見られないが、東方Projectにはスカーレット姉妹という吸血鬼キャラがいること、歴史を編纂しておりしかも寺子屋で教えているという設定がある慧音は、吸血鬼解説ではむしろ相応しいと思って選出した。

続きを読む

当ブログを参考にした漫画「ペニー・フィクションで吸血鬼を殺して」の紹介とレビュー

 年末に嬉しい連絡がありました。とある方から、当ブログとニコニコ動画の内容を参考にした漫画が、商業誌の受賞作品に選ばれたとの嬉しいご報告を頂きました。もちろん、私のブログ以外にも様々なものをご参照されておりますが、商業誌の受賞作品の一助になれたことは、吸血鬼の啓蒙活動を続けてきた甲斐があったと思った瞬間でした。拝読させて頂きましたが、非常に設定が上手く、面白い作品でした。作者様により無料公開されていることもあり、当ブログをご覧になるような、吸血鬼にご興味がある方はぜひ読んで頂きたい作品でした。今回はその漫画を紹介と、個人的な感想も述べていきます。なお、今回一部紙面を公開しておりますが、作者様を通じて出版社様からも問題無いとの承諾を得て掲載しております。

続きを読む