吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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女性で最初に吸血鬼小説を書いたエリザベス・グレイという作家は存在していなかった【ピーター・ヘイニングの捏造疑惑④】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?(ヘイニングの不正を知る前の記事)
女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて
古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
④この記事
ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーなど、まだまだある捏造疑惑
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか
【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルの捏造


 前回の記事の続きより。女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵(1828)」は、イギリスのアンソロジスト、故ピーター・ヘイニングにより初めて紹介されたが、海外では現在ヘイニングによる捏造と考えられている。そのように思われてしまう理由は、ヘイニングには数々の不正疑惑があるから。「スウィーニー・トッド」「バネ足ジャック」などのイギリスの都市伝説に関しては実在していたと主張するも、検証可能な証拠は何一つ見せてこなかった。ルートヴィヒ・ティーク作「死者よ目覚めるなかれ」や、ホレス・ウォルポールの「マダレーナ」は、本当の作者は別にいたことが判明、マイナーなことを利用して作者を偽った可能性が非常に大きい。たとえ真面目に調査をしたのなら、調査や検証があまりにも杜撰すぎる。そしてヘイニングが発掘したという「フランケンシュタインの古塔」は、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」に影響を与えたと主張するも、その「新発掘」した証拠品は一切見せず、逆にヘイニングの主張がかぎりなく嘘である証拠が見つかるほどだ。これを紹介した荒俣宏は「ヘイニングによる捏造だろう。それどころから彼は他にも同じ手法で「珍品」を捏造した過去がある」と言いきるほど。そしてまだ紹介していないが、ヘイニングはイギリス怪奇小説の巨匠、M・R・ジェイムズに関しても数々のでっちあげを行っている。こうした背景があるからか、ヘイニングが160年ぶりに発掘したというエリザベス・グレイの吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」も、彼による捏造だろうと考えられている。実際、「骸骨伯爵」の実物の書誌は、彼は一切公開していない。


 だが前回の記事の終わり際でも述べたが「骸骨伯爵」の作者、エリザベス・グレイのことを再調査してみると、さらにとんでもない事実が判明した。なんとエリザベス・グレイという人も、実在せず捏造された存在であったことが判明した。だがエリザベス・グレイを捏造したのは、ピーター・ヘイニングではない。モンタギュー・サマーズ師が彼女の小説「手探りの試練」の書評を、ヘイニングが生まれた1940年に発表しているからだ。そう、ヘイニングはエリザベス・グレイが捏造された存在とは知らずに、「骸骨伯爵」は彼女の作品であると発表してしまった。このことからも「骸骨伯爵」という作品の実在性とヘイニングの主張が、極めて疑わしくなった。ということで、このあたりの経緯を詳しく説明していこう。


キメラな存在だったエリザベス・キャロライン・グレイ

 吸血鬼小説「骸骨伯爵」を作ったとされるエリザベス・グレイに関しては前々回の記事で紹介したが、軽くおさらいしておこう。彼女はカーネル・グレイと結婚、夫の伝手で当時大手製紙会社兼出版社社長のエドワード・ロイドに紹介される。そしてそのまま彼女はエドワード・ロイドの秘書を務めることになる。エドワード・ロイド社は三流週刊小説誌ペニー・ドレッドフルの大手出版社であり、吸血鬼ドラキュラにも影響を与えたとされる作品「吸血鬼ヴァーニー」の版元でもあった。そんな会社に勤めた彼女は、ロイドの秘書から後に編集主幹となり、ペニー・ドレッドフルの執筆陣(ハック・ライター)をまとめる立場となる。週刊故に締め切りに間に合わないこともあったので、原稿を間に合わせるべく、彼女自身が代筆をするようになったという。その経験を活かすためか彼女も作家となり、低俗なペニードレッドフル作品を作るようになるが、どちらかというと銀のフォーク小説というジャンルで名を馳せるようになった。彼女が在籍していたエドワード・ロイド社は、後にエドワード・ロイド社のペニー・ドレッドフルで一番人気を博したとされる「吸血鬼ヴァーニー」の版元でもある。そして彼女エドワード・ロイド社の編集主幹であり、「吸血鬼ヴァーニー」より前に「骸骨伯爵」という吸血鬼小説を作っていたことから、グレイは吸血鬼ヴァーニーに何らかのアイデアを与えたのではないかと、ピーター・ヘイニングはそのように推察していた。ヘイニングでなくとも、ヴァーニーとなにか関係があったのではないかと考えるだろう。実際、現在一般的な「吸血鬼の牙」は、吸血鬼ヴァーニーから始まったとされているが、それよりも前の「骸骨伯爵」において、「吸血鬼の牙」のシーンが出てくることから、ヴァーニーは骸骨伯爵の影響を受けたものでは、と思っていた時期が私にもあった。そしていまや吸血鬼の代名詞となったドラキュラは、吸血鬼ヴァーニーの影響を受けたに過ぎない作品と言う評論家もいる。そんなヴァーニーに影響を与えたとなると、エリザベス・グレイと彼女の作品「骸骨伯爵」は吸血鬼史上、かなり重要な位置を占めると言っても過言ではない。


 以上が以前解説した内容となるが、この経緯がまるっきり嘘であることが明らかとなった。判明したきっかけは、エリザベス・グレイの英語wikipedia記事だ。骸骨伯爵のwikipedia記事を見たとき、彼女の記事のリンクもあったのだが、その時はショックのあまり、リンクがあることに気が付かなかった。2018年は骸骨伯爵の記事があったのだが、2019年にはエリザベス・グレイの記事にリダイレクトされるようになっていた。ニコニコ動画でこの経緯を説明する動画を作る際、改めて骸骨伯爵のwikipedia記事を見たときに彼女の記事に飛ばされて、ようやく彼女が捏造された存在であることを知った次第だ。

en.wikipedia.org

 wikipedia記事の主な参照元はカナダ出身の漫画家・イラストレーターである、ジョン・アドコックさんのブログ"Yesterday's Papers"からの引用であった。

ペニー・ドレッドフル
ペニー・ドレッドフルのビックスリー


 前々回の記事でも見せた、貴重なペニー・ドレッドフルの実物画像だが、この画像を掲載していたのもアドコック氏だ*1。アドコック氏は自身は研究者というわけでなく、この件については他の研究から引用して紹介していた。ということでアドコック氏のブログ記事「エリザベス・キャロライン・グレイのデマ」の記事や、記事中で紹介されている論文から紹介していこう。

アドコック氏のブログ記事
john-adcock.blogspot.com


 ペニー・ドレッドフルは、19世紀の労働者階級向けの低俗雑誌で、最盛期には出版する業者が100社以上もあったという。ペニー・ドレッドフル、あるいはペニー・ブラッドと呼ぶのが通例だが、アドコック氏はエドワード・ロイド社製とわかるように、ロイド・ブラッドという呼び方でペニー・ドレッドフルを説明している*2


 まずアドコック氏は、ヘレン・R・スミスの「スウィーニー・トッド、トマス・ペケット・プレスト、ジェイムズ・マルコム・ライマー、エリザベス・キャロライン・グレイの新しい光」から、グレイに関する肝心な部分だけ紹介してくれている。プレストやライマーは「吸血鬼ヴァーニー」や「真珠の糸(スウィーニー・トッド)」の作者とされている二人である。本のタイトルから察せられるように、グレイに関するデマは、吸血鬼ヴァーニーの作者たちも絡んでいる。


 以前はkindle版が13,000円程で販売されていたが、2022年2月現在では取り扱いがなくなった。ただし同じ内容だと思われるPDFが、全文無料で公開されている。

上記の内容を一部PDF化したもの(現在は失効、ニコニコ動画解説時はこちらを閲覧)
恐らく全文を掲載したPDF(今回記事ではこちらを閲覧)
The University of Chicago Press: Journalsにあるもの(登録が必要*3


 R・スミス氏がエリザベス・グレイの作品だとされる本を調査した結果、その大半が吸血鬼ヴァーニーの作者、ジェイムズ・マルコム・ライマーの作品であるとの結論を出した。”Pho! Pho!”というフレーズが、”Edith the Captive””The Dark Woman””Ada the Betrayed””Jane Brightwell””Captain Hawke”などのライマーの作品と分かっているものに出てくるからだと言う。ライマー作なのにエリザベス・グレイ作と間違われてしまった例としてとくに挙げられているのが、1842年に出版されたペニー・ドレッドフルの一つである、「紳士ジャック、あるいは路上生活」という作品で、アドコック氏は別記事で解説している。もちろん「紳士ジャック」にも”Pho! Pho!”のフレーズが使われているという。


Gentleman Jack; or, Life on the Road
Gentleman Jack; or, Life on the Road


 アドコック氏が言及していない中で、R・スミスの論文を見て気になったものは、1846年の「手探りの試練」だ。冒頭で述べたように、1940年にモンタギュー・サマーズ師が、エリザベス・グレイの作品として書評を残している。だが1846年の「死人の谷、あるいはボデスデンの花嫁」"The Dead Man’s Hollow, or, The bridal of Bodesden"という作品において、『「手探りの試練」と「吸血鬼ヴァーニー」の作者による作品』という宣伝がされていることが判明していた。「吸血鬼ヴァーニー」は過去記事で何度も紹介したように、作者はジェイムズ・マルコム・ライマーである。よって「手探りの試練」もエリザベス・グレイの作品ではなく、ライマーの作品だった。


 次にアドコック氏は、オーストラリア・モナシュ大学の英語講師であるパトリック・スピーディング氏の2010年の論文”The Many Mrs. Greys: Confusion and Lies about Elizabeth Caroline Grey, Catherine Maria Grey, Maria Georgina Grey, and Others”の内容を紹介している。日本語にすれば「多くのグレイ夫人、エリザベス・キャロライン・グレイ、キャサリン・マリア・グレイ、マリア・ジョージアナ・グレイ、その他についての多くの混乱と嘘」という論文になる。一部の内容は、ニコニコ視聴者様が分かり易く要約して頂いた。この場を借りまして厚くお礼を申し上げます*4


"The Many Mrs. Greys: Confusion and Lies about Elizabeth Caroline Grey, Catherine Maria Grey, Maria Georgina Grey, and Others"

 上記は研究者専門のSNSリサーチゲートにある論文。閲覧には研究者登録が必要。私は無理だった。むしろ大学生とかなら多分登録できるかも。けど直リンクがあった。


パトリック・スピーディング氏の論文(PDF)



 まずスピーディング氏によれば、エリザベス・グレイという人物は、1922年のノート&クエリーズという学術雑誌において、アンドリュー・ド・テルナント”Andrew De Ternant”という人物によって作られたという。


Notes and Queries
Notes and Queries - Series 12 - Volume 10.djvu/7


 ノート・アンド・クエリーズとは英語、文学、辞書編集、歴史、そして学術的な古物学に関連する短い記事を掲載している1849年から続く季刊誌で、出版社はオックスフォード大学出版局だ。上記画像は1922年のものだが、問題のド・テルナントの論文が掲載されたものかどうかは不明。


 スピーディング氏によれば、19世紀のイギリスにグレイという女性が多数おり、それらが混ざったうえ、そこに捏造も加わったのがエリザベス・グレイだという。少なくとも3名のグレイ夫人が一つにされてしまったという。合わさっただけでなく捏造も加わったとなれば、グレイ夫人はキメラな存在で、元型はもはや分からないだろう。そしてグレイ夫人を捏造したド・テルナントという人物は、あのフランスの作曲家、クロード・ドビュッシーに関する捏造で札付きの人だということだ。翻訳の協力してくれたニコニコの視聴者の方はこんな人の説が、なぜ今まで信じられていたのかが謎だとおっしゃっていた。自分でも調べてみたところ、ドビュッシーの捏造に関しては以下のサイトに詳しく書かれていた。

www.thefreelibrary.com


 ド・テルナントはドビュッシーと共に行動したことがあると、伝記作家に吹聴していったようだ。普通なら信用しないだろうが、ドビュッシーは人嫌いであったことで、詳細がなかなか分からない人物であったこと、権威ある書誌に情報が掲載されていたため、信用されたようだ。あとド・テルナントは情報を小出しにしていき、伝記作家の方から聞きに来るように仕向けていたのも、ド・テルナントの証言が信用される要因となったという。こうしてドビュッシーの人物像は、ド・テルナントのによる捏造が長年信じられてしまうことになった。


 ここで気になることは、ド・テルナントはなぜ歴史に名を残すような人物ではない、エリザベス・グレイという女性を捏造する必要があったのかだ。ドビュッシーの捏造なら、日本の音楽の教科書にも名が出てくるほどの著名な人だから分かる。先ほどのサイトによればド・テルナントは、”お堅い”音楽雑誌の評論家になりたかったようだが、ことごとく断られてしまう。そこから伝記作家としての名声を得るために、ドビュッシーの捏造に手を染めたと考えられている。また当時は音楽家に関する捏造は、特段珍しい話でもなかった。売れない演奏家が、有名な〇〇の未発表作品だと偽って演奏することはよくある話と、先ほどのサイトには書いてあった。だが、エリザベス・グレイは何故なのだろうか。そこらあたりの事情は、分からないままだろう。


 あとスピーディング氏の論文で気になったことは、確かにド・テルナントはエリザベス・グレイという人物を捏造したが、それとは別に勘違いされる要素もあったようだ。具体的には、エリザベス・グレイ作とされた「賭博師の妻」“Gambler’s Wife”という作品だ。実はこれ1844年に出版されたものと、1846年に出版されたものとがあるのだが、それぞれ別ものだという。タイトルが一緒なため色んな人が混同して紹介してしまったことも、エリザベス・グレイという人物が捏造される原因となったようだ。


 以上を踏まえて、ブログ主のアドコック氏は最後のにこう結んでいる。ピーター・ヘイニングが1995年の”The Vampire Omnibus”で紹介した「骸骨伯爵」、現在こちらは調査中ではあるが、作者だというエリザベス・グレイが存在しないことは明らかである。ヘイニングによるデマ、あるいは捏造が判明することは間違いないと。このように作者が存在しないことからも、ピーター・ヘイニングが発掘したと主張する吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」の存在が、ほぼヘイニングによる捏造と言いきれる結果となった。ヘイニングはエリザベス・グレイが存在しないことを知っていたであろうか。エリザベス・グレイが研究されたのは、どうも2000年代に入ってからのようであるため、ヘイニングは知らずして捏造してしまったのだと思う。今回のブログや論文から分かったことは以上だが、ヘレン・R・スミスの論文や、パトリック・スピーディング氏の論文には、もっと興味深いことが色々と書かれているが、要点だけを紹介した。気になる方はぜひリンク先のPDFをご覧頂きたい。


 今回の事実を初めて知ったときは、wikipediaを調べるということを怠ったことが悔やまれる。もっと早くに事実を知る機会があったからだ。そして「骸骨伯爵」の記事は単独であったのに、2019年には作者のエリザベス・グレイの記事に統合されてしまったが、一作品として取り扱う価値もないと判断されてしまったのことが余計に悲しかった。


 今回のシリーズの主題は、ピーター・ヘイニングが発掘したと主張する吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が、彼の捏造であったということについて。今まで解説してきたように、ヘイニングは「スウィーニー・トッド」「バネ足ジャック」は本当に存在していたと主張するも、証拠は一切みせず。G.E.K.I.作「マダレーナ」、エルンスト・ラウパッハ作「死者よ目覚めるなかれ」に関しては、ホレス・ウォルポール、ルートヴィヒ・ティークと、それぞれ恣意的に作者を取り違えて紹介してしまう。そして作者不詳「フランケンシュタインの古塔」、これはヘイニングによる創作の疑いが極めて濃厚、そして他にも同じ手法で珍品を捏造した前科があると荒俣宏は言っている。そして「骸骨伯爵」の作者だというエリザベス・グレイが、ヘイニングが関与していないとはいえ捏造された存在であったことが発覚した。ヘイニングが新発掘したと主張する「骸骨伯爵」の存在が疑われるのも、こうした積み重ねがあるからこそだろう。ヘイニングの主張は全て疑ってかかるべきだ。もはやヘイニングは一切信用できない。彼の発言や彼が新発見と称したものは全て疑ってかかり、確固たる証拠があるのかを調べていかねればならない。「ない」という証明は他人からは決してできないこと、そしてその「ない」を証明できる本人は既に亡くなっていることが、余計に質が悪いと言わざるを得ない。


 ヘイニングは人気のあったホラー・アンソロジストだと紹介されている。その理由が、紹介の切り口が面白いことと、見たこともない小説を度々発掘してくるから。けどそれが嘘となると読者に対する裏切りだし、虚構による人気だったということになる。私個人の意見としては、もはや罪の部分が圧倒的に多すぎる。骸骨伯爵の存在は最初信じていたところ、盛大に裏切られたという個人的な私怨もあるが。ただ彼がやったことは、今回紹介したド・テルナントとまるで一緒だ。ヘイニングの数々の嘘は文学史的に言えば「フランケンシュタイン」以外はマイナーであるから、ドビュッシーと比べればどうだっていいと言われればそれまでだろう。だが、マイナーだからといって嘘をついていい理由にはならない。ヘイニングにより恣意的に取り違えられた作品の作者たちからすれば、作家の矜持からすれば許されないはずだ。そして個人的私怨を抜きにしても、ヘイニングの数々の証拠のない主張や発掘のせいで誤った情報が拡散し、研究者が多大な労力をかけて確認しているのは紛れもない事実だ。大衆はどうしても「人気のある有名な人」の言うことは鵜呑みにしてしまうもの。実際、欧米の研究者ですらヘイニングの主張を鵜呑みにしてしまいその結果、日本でもいくつも誤った情報が広まってしまった。いくら今回のように訂正しても、信じない人だってきっと出てくる。それに「面白い切り口」で紹介したというが、様々なことで恣意的に情報を選んでいる手口を考えれば、その「面白い切り口」とやらも、「事実」よりも「面白さ」優先で事実を捻じ曲げて紹介しているのではないかと疑ってしまう。以上から私は、ヘイニングの罪はあまりにも大きい、人気は虚構によるもの、擁護すべき人物ではないという意見になる。


 ピーター・ヘイニングの捏造疑惑は、荒俣宏の著書オカルト・クロニクルで一部言及されてはいたものの、包括的に紹介したものは、当ブログが初めてとなるだろう。ヘイニングの著書の翻訳は、日本ではごく一部のみに留まるが、本国では実に100冊以上のアンソロジーを組んでいる。他ににどれだけの捏造を行ったのであろうか。そして気になることは、ピーター・ヘイニングという人物が、日本の怪奇・幻想文学界隈において現在はどういった扱いをされているのかが気になる。少なくとも2014年に荒俣宏はヘイニングの捏造を紹介してはいるが、どこまで知られているのだろうか。そして海外ではどうなのであろうか。海外の掲示板を見ると、ヘイニングの捏造は本国でも知らない人が多く、ある方が「誰かがヘイニングの捏造をまとめて正していくべき」という意見を書いていた。その掲示板は次回の記事で紹介しよう。そう、ヘイニングの捏造疑惑はまだあるのだ。「骸骨伯爵」ではないが、吸血鬼に関することで。ということで、次回も引き続き、ヘイニングの捏造について紹介していきたい。調査事項があるので、次回の投稿は未定です。



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*1:余談だが、吸血鬼ヴァーニーにも続編とされた作品が贋作であるとされていることが判明したのだが、そのことを紹介していたのもアドコック氏だ。これはいずれ吸血鬼ヴァーニーの解説で紹介しよう。

*2:ロイド・ブラッドという言い方はアドコックさんが独自に呼んでいるだけなのか、当時本当にあった通称なのかは不明。ただペニー・ドレッドフルの呼び方にはブラッド・アンド・サンダーズ他、軽蔑的な通称もあったことは確か。

*3:私は別件で登録してみたが、英語が駄目なこともあってうまく閲覧できない。けど上手くやれば閲覧できると思われる。

*4:私は英語はからっきしで、英語は機械翻訳頼みであるのだが、スピーディング氏の論文は機械翻訳で読む分量ではないので、ニコニコ動画の解説動画を作るときは分かり易く要約してくれたアドコックさんのブログ記事だけで解説した。その後ニコニコ視聴者のコメントで、スピーディング氏の論文を見て内容を教えてくれた方がいた。