吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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「ディオダティ荘の怪奇談義」をモチーフとした舞台『BLOODY POETRY(ブラディ・ポエトリー)』を見てきました

前回の記事で言ったように、拙作『ゆっくりと学ぶ吸血鬼 第12話』で紹介した、ディオダティ荘の怪奇談義をモチーフとした舞台『BLOODY POETRY』を観劇してきました。(劇団:アン・ラト(unrato) 

ゆっくりと学ぶ吸血鬼 第12話

この記事は2017年2月19日にブロマガで投稿した記事を移転させた記事です。
下は元記事のアーカイブ。

「ディオダティ荘の怪奇談義」をモチーフとした舞台『BLOODY POETRY(ブラディ・ポエトリー)』を見てきました:ノセールの吸血鬼解説ブロマガ - ブロマガ

 「ディオダティ荘の怪奇談義」は何度も解説したように、詩人バイロン卿が「僕たちも一つ、怪奇小説を書こう」と提案したことがきっかけとなり、メアリ・シェリーは怪物「フランケンシュタイン」を、バイロンの侍医であったポリドリはブラム・ストーカーのドラキュラでさえ影響を受けたに過ぎない、最初の吸血鬼小説「吸血鬼」吸血鬼の始祖ルスヴン卿を生み出しました。

 この出来事は吸血鬼を語る上では絶対にかかせず、吸血鬼好きならば常識な出来事です。知らなければ「ああ、吸血鬼ドラキュラも読んでないのに吸血鬼好きを名乗るのか」とニワカ扱い仕方がない出来事です(平井訳「吸血鬼ドラキュラ」に解説あり。長らく平井版しかなかった)

 今回の劇はハワード・ブレント脚本、1984年ロンドンで初演されたもので、今回日本では初の翻訳公演となります。このセリフ劇は、英米では幾度となく上演されているそうです。

 今年は1818年のフランケンシュタイン出版からちょうど200周年となる節目の年。フランケンシュタインやメアリに関する書籍を発行しようとする動きが国内外であるようです。今回の劇は、ちょうど良い時に上演されたと言っても過言ではないでしょう。

 今回はそんな「


上:バイロン卿の肖像画
下:ガブリエル・バーン演じる映画「ゴシック」のバイロン卿

上:ジョン・ポリドリの肖像画
下:映画ゴシックのティモシー・スポール演じるポリドリ


ゴドウィン「結婚制度なんて不要!宗教や国家権力の服従を意味する!」

母メアリ「そうよそうよ!私達は権力に屈指はしないわ!」

支援者「ゴドウィンさんかっけー!支持するよ!」

母メアリ「けど結婚しないとなると今度生まれてくる子、私生児扱いになるわ」

ゴドウィン「私生児だと気の毒だよな…世間の風当たり強いし。よし仕方がない!一つだけ方法がある!」

ゴドウィン&母メアリ「娘の為に、結局結婚しました!

支援者「ええ…」

参照ソースはクリック先


昔の映画なのでホモとなっている。

青柳「それにしてもバイロンもシェリーもモテるんだよね。こればっかりは不思議。ポリドーリは知識もあるし、医者だからお金もきっとありますよ。」

猪塚「でも女子って結局アウトロー好きじゃん(笑)」


ホテルのベッドで撮影

ルイ・エドゥアール・フルニエ作
『The Funeral of Shelley(シェリーの葬儀)』(1889)

メアリーは多少悪意もあり「フランケンシュタイン」に登場する邪悪な教師をポリドーリと名付けるが、その復讐に、ポリドーリは物語の筋を自分が提供したとの偽りの主張をした


【まとめ】

 取りとめなく感想を書いてきたが、今回の舞台を見て思ったことは、今回の舞台を理解して楽しむには、当時の時代背景、登場人物に纏わる知識は必要になるんじゃないかと思った事だ。映画ゴシックでもそうだが、ある程度のリアル知識があること前提に舞台が作られていると感じた。まあ海外の怪奇文学好きには「ディオダティ荘の怪奇談義」はもはや常識であるから、馴染の無い日本人にはやや敷居が高いと思った。

 私は吸血鬼解説である程度のことは調べていたから細かいネタを見つけては「にやり」としていた。例えば度々出てきた「イグザミナー」。バイロンの伝記を読めばイグザミナーがどんな新聞社であったかがよくわかる。

 他にはバイロンが冒頭で何度も上げていた「出版社のジョン・マレー」
 ジョン・マレーはバイロンの友人で、バイロンの作品を出版を手掛けた人物。バイロンが金銭面で困窮したとき、無償で与えようとしたとき逆に断る。逆にそのお金を尊敬する次の3名に当てるように要望する。その3名とは、メアリとクレアの父ゴドウィン、舞台でも名前が出ていたクリスタベルの作者コールリッジ、そしてオスカー・ワイルドの大叔父のマチュリン
 舞台でも朗読していたクリスタベルは、バイロンが支援をすることによって、十年以上の時を経て出版にこぎつけた作品である。この作品は後に吸血鬼カーミラやドラキュラにも影響を与えたとされているので、この時バイロンが支援をしなければカーミラもドラキュラも内容が変わっていたかもしれない。そう考えるとバイロンはとことん吸血鬼に縁のある人物であるといえる。

 あとジョン・マレーで思い出したが、舞台中にポリドリが「とある出版社からバイロンの伝記を秘密裡に、500ポンドで頼まれた」という台詞があった。この出版社について劇中では言及がなかった。実はこの依頼をしたのがバイロンの友人でもあるジョン・マレーである。ここで気になるのが、「バイロンは自分の伝記をポリドリが書いてあることを知らなかった」とする文献と「バイロンは当然知っていた」とする文献が混在していることだ。映画ゴシックでは「ポリドリは僕の伝記を書いてくれている」と言っているので、「バイロンは知っていた説」を採用していた。ポリドリが妹に宛てた手紙には「バイロン卿は僕に500ギニー(ポンドのこと)提供してくれた」とある。さらに依頼者がバイロンの友人関係であったジョン・マレーである。マレーは上記でも解説したように、生活に困窮したバイロンに無償で金を与えようとしたぐらいの人物だ。そんな人物が友人をだまし討ちするような真似をするとは、ちょっと考えにくい。なので私は、「バイロンはポリドリがマレーからお金を貰って伝記を書いていた」説が有力だと思っている。が、今回の舞台を見てやっぱり実際のところはどうだったのか、ずっと気になって仕方がない。

 今回の舞台を見て内容を補完したいと思った方は、ぜひ楠本晢夫・著「永遠の巡礼詩人バイロン」を読んで頂きたい。舞台はパーシーが主人公なのになぜバイロンの本?と思われるかもしれないが、今回のディオダティ荘に集まるあたりからパーシーが死ぬまでの間のことはこの本で大体網羅されている。それに先程も言ったように、イグザミナーとかジョン・マレーとか、またイタリアでブチ切れていた女性とか、バイロンがポリドリにいった3つの事とか、全部書かれているからである。私も帰ってからこの本を読み返すと「ああ、これはそういうことだったのか!」という発見がいくつもあった。なかなか読みごたえがある本なので、舞台が気になった人はぜひ読んで頂きたい。舞台の内容の理解がより深まることは間違いなしである。
一つ注意する点を挙げるとすれば、著者の楠本氏がバイロン好きな人であり、かなり好意的にバイロンを紹介しているという点だろう。

 後は、メアリシェリーのフランケンシュタインのまえがきや、吸血鬼関連本を合わせて読むといいかもしれない。だがそんな時間ないよ!という方は、ぜひ拙作「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」をご覧いただきたい。舞台でも朗読していたクリスタベルの解説や、ポリドリ作「吸血鬼」を劇で再現していますで、ぜひご覧ください!(ここぞとばかりに宣伝)

 ただ今回の舞台、バイロンの伝記を読んでいても理解できない部分も沢山あった。それはバイロンの文学性、思想、哲学、そして西欧文学の基礎知識に関することだ。序盤はパーシーとバイロンとでいろんな思想や文学を語り合うのだが、シェイクスピアの名前は聞いたことがあっても実際には読んだことないので、一体何を言っているんだ…ということがあった。バイロンが語る思想や哲学も言ってることの意味がさっぱりだった。こうしたことを理解するには、メジャーな西欧文学を読み、また当時の時代背景や思想、哲学について学ぶ必要があるということを思い知った。

 ここまでの長文にお付き合い下さり、ありがとうございました。今回の記事は半分自分用の忘備録として作成しましたが、何かのお役に立てれば幸いです。
誤字脱字は見つけ次第、順次修正していきます。
(これだけの長文なので、変な文法はどんだけ修正しても出てくる…)

 舞台中言及があったコールリッジの『クリスタベル』は、私が動画で解説した以外にも、実際の日本語訳がcygnus_odile氏のサイトで読むことが可能。未完成の作品で中途半端なところで終わる。未完成なのは、この独特の韻律を、サー・ウォルター・スコット、ワーズワース、そしてバイロン卿がパクって先に発表したから。コールリッジも「バイロンはクリスタベルの韻律をパクって、『異教徒』という詩を発表した」と愚痴っていた。でいう、絵柄のパクリとかパクツイしたようなもん。
そんなバイロンが後年、コールリッジのクリスタベルの出版を支援するというのだから、人生何が起こるか分かったものではない。(参照ソース:リンク先のPDFの11ページ目)

 

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