ゆっくりと学ぶ吸血鬼第13話をご視聴頂きまして、誠にありがとうございます。
13話はまだまだ続きますが、前半と後半では話題が違うため、一旦ここで参考文献を紹介しておきます。今回の吸血鬼の訳語の変移は大変貴重な話題であるので、いずれブロマガにおいても紹介する予定です。
2018/5/7追記:ブロマガ記事を作成しました
『吸血鬼』という和製漢語を生み出したのは南方熊楠…という説が覆った!プロの評論家からのお墨付きも頂きました
動画はこちらから
この記事は2017年11月11日にブロマガに投稿した記事を移転させたものです。
下は元記事のアーカイブ
~藤村シシン先生のご助言ツイート~
12話や12.5話で紹介したバイロンは小説「断章」について。
主人公は友人であるオーガスタス・ダーヴェルが死にそうなとき、ダーヴェルに頼みごとをされる。それは月の9目に塩泉に指輪を投げ入れ、翌日にデメテルの神殿へ行けというもの。
なぜどの月でもいいから9日目にしたのか、その由来が分からないと解説しました。
この件に関してギリシャ神話研究家の藤村シシン先生ご本人様から直接、情報を教えて頂くことができました。そのツイートを紹介します。ツイートを紹介することについては、藤村シシン先生にご許可を頂いております。
①シシン先生、うp主の動画を発見
まさか吸血鬼の話で『古代ギリシャのリアル』を紹介してもらえるとは!無関係だと思っていた知識同士がつながりゆくのを感じるぜ…。│ゆっくりと学ぶ吸血鬼 第12.5話その1『10話のコリントの花嫁の訂正など』 https://t.co/Aw80S77G3K #sm31605243
— 藤村シシン🏛NHKギリシャ講座開講中 (@s_i_s_i_n) July 21, 2017
動画内で拙著をご紹介下さってありがとうございます。「月の9日目にエレウシスの塩泉に指輪を投げ入れ、翌日デメテルの神殿へ行け」を古代ギリシャ的に解釈するなら、エレウシスのデメテルの秘儀との関係が第一に思いつきます(魂の復活の祭儀は「9」との関わりがあります)続 @y_noseru
— 藤村シシン🏛NHKギリシャ講座開講中 (@s_i_s_i_n) July 21, 2017
続 第二に、古代ギリシャでは月の9日目は植物や人間の誕生にとって最もいい日とされています。前者の一次資料は『デメテル讃歌』等、後者は『仕事と日』でバイロンなら両方知っていたのではと思います。吸血鬼の動画、超分かりやすくて大変面白いです!突然失礼しました&ご紹介有難うございました!
— 藤村シシン🏛NHKギリシャ講座開講中 (@s_i_s_i_n) July 21, 2017
~烏山奏春氏による吸血鬼の訳語の変移まとめ~
烏山奏春氏のドロップボックスへ移動
烏山奏春氏は、vampireの訳語の変移を年代順に並べた表と考察をPDF化、それをドロップボックスで公開されております。特に表を見れば英語vampireの訳語がどのように変移していったのかが一目瞭然であるので、ご興味のある方はぜひご覧になってください。勿論、公開のご許可は頂いております。
~ことの発端となったツイッターの呟き一覧~
これまで定説であった、東雅夫編纂「血と薔薇の誘う夜に」で紹介されていた、吸血鬼という言葉を造語したのは南方熊楠であったという説が、覆った経緯。
①烏山奏春氏、うp主に連絡してくる。(クリックで移動)
②うp主による返信
③東雅夫先生、烏山奏春氏が発見した「吸血鬼」という漢語は1915年の南方熊楠以前にもあり、1914年の押川春浪の小説で使われていたことは、貴重な発見であるとコメントされる(リンク先参照)
これは本朝吸血鬼移入史上、貴重な発見かと。>前RT 春浪は盲点でしたが、たしかに使っていてもおかしくはないと思います。『万国幽霊怪話』なんかも出してるし。背景が気になりますね。(雅)
— 怪と幽 (@kwai_yoo) April 25, 2016
このツイートは、「全文をそのまま引用」「出典明記」の2つの条件を守ることで、転載のご許可を頂きました。(当時キャプチャーしたのものなので、烏山奏春氏は昔のハンドルネームとなっている)
④このツイートのリンク
なお、小生が『血と薔薇の誘う夜に』巻末解説に記した南方熊楠造語説は、あくまでも「管見の及ぶ限り」でして、熊楠本人も、それ以前に使用している可能性はありますし、第三者が先に考案していた可能性もあると思います。松井松葉の「血を吸う怪」(1902)も、あと一歩な感じだし(笑)。(雅)
— 怪と幽 (@kwai_yoo) April 25, 2016
2018/9/8追記
その後、月刊ムーの記事について感想を書いたらまたまたお返事が頂けたので、2年前のツイートを紹介できて好評であったことをご報告させていただきました。詳しい経緯は追ったリンクを参照してください
タイムトラベラーが語る衝撃の運命! 月刊ムー2018年10月号、発売!! https://t.co/FF8nGTEphP #ムー @mu_gakkenさんから
— ノセール (@y_noseru) 2018年9月8日
東雅夫氏による「東西の猫の怪奇幻想譚」という特集にて、
日本の化け猫が「吸血鬼カーミラ」となった説が紹介されていた
決定的な証拠はなかったけど、非常に面白い説だった!
おお、それは何よりでした。ネット経由で衆知が集まるのは素敵なことですね。(雅)
— 怪談専門誌『幽』 (@kwaidan_yoo) 2018年9月8日
その他、参考にした烏山奏春氏のツイッターでの呟き
・日本の最古のvampyreの例
・寺田寅彦が吸血鬼を女性の意味で使っていた
~wikipedia~
・南方熊楠 ・井上円了 ・柳田國男 ・久米正雄 ・芥川龍之介 ・押川春浪
・押川清 ・諳厄利亜語林大成 ・フェートン号事件 ・菩提流支 ・英和対訳袖珍辞書
・堀達之助 ・バートリ・エルジェーベト ・原駒子 ・鈴木澄子 ・和製漢語
・セダ・バラ ・吸血鬼ノスフェラトゥ ・ファム・ファタール ・シャルル・ボードレール
・餓鬼
~参考サイト~
・久米正雄(コトバンク) ・マルシュナー(吸血魔) ・正法念処経(コトバンク)
・ナショナルジオグラフィック
「吸血鬼や狼男はなぜ生まれた? 伝説誕生の経緯を検証 科学で挑む人類の謎」
・不二出版「変態心理」の通販
・東洋経済オンライン「ウォール街に跋扈する"吸血鬼"の正体」
・goo辞書(E-DIC英和辞典) 訳語「人を急に退場させるための落とし穴」
・goo辞書(小学館ランダムハウス英和大辞典)
(人の膏血を絞り取る物、 妖婦、毒婦、毒婦役の女優)
2018/10/13現在、上記二つのgoo辞書の検索結果は小学館プログレッシブ英和中辞典によるものしか出てこないように変更されたが、第三義に「毒婦,妖婦ようふ;毒婦役の女優」、大五義に「《演劇》(舞台の)落とし戸,はね落とし(vampire trap)」とある
・Weblio英和辞典 訳語「吸血鬼、妖婦」
・神保町系オタオタ日記(芥川龍之介と平井金三)
・芥川龍之介四コマ(平井金三の細かさにうんざりする様子を4コマにしたもの)
・CiNii「平井金三と日本のユニテリアニズム」
・琉球大学教育学部 小澤保博「芥川龍之介研究ノート」
・Weblio辞書「英華字典」の解説 ・コトバンク「英華字典」の解説
・トランスアトランティック「ヴァンプ」 ― アメリカ映画黎明期における性の地政学 ―
(ヴァンプ女優セダ・バラ、そして主演映画「愚者ありき」についての解説)
・青空文庫 南方熊楠「詛言に就て」
1915年に南方熊楠が吸血鬼という言葉を紹介した、「詛言に就て」の全文。
下記のファイルダウンロードより閲覧可能。XHTMLファイルならそのままブラウザで閲覧可能
~吸血鬼の訳語、英和辞典、書籍の一覧(年代順に表記)~
英和対訳袖珍辞書は「早稲田大学古典ライブラリー」で検索可能。
①検索結果一覧が出る。
②好きな年代を選択する。ここでは1862年を選択。
③リンク情報:画像情報をクリックすると、HTMLかPDFを選択できる画面へ。
④HTMLを選択すると、画像コピーのリンク一覧が出てくる。
1862年のvampireの訳語は460ページ目にある。
6世紀頃 「吸血鬼王」
1814年 日本で最初の英和辞典「諳厄利亜語林大成」 ヴァンパイアの項目は無い
1843年 『新ポケット英蘭辞典』 英和対訳袖珍辞書の底本(大阪府立大学のリンク)
1843年版にはvampaireの項目無し(こっちは実際のデータのリンク)
1857年 『新ポケット英蘭辞典』 こちらはvampireの項目有り(リンク先のファイル参照)
こちらはGoogleブックスに掲載のもの
葛拉黙兒私 著『蕃語象胥』 (画像データリンク先の詳細)
日本において「vampyre」の文字が確認できる、恐らく最古の例
1862年 『英和対訳袖珍辞書』 訳語「蛭」 (画像データリンク先の詳細)
1866年 『英和対訳袖珍辞書』 訳語「妖鬼(小説の存在)」(画像データリンク先の詳細)
1869年 『英和対訳袖珍辞書』 訳語「妖鬼(小説の存在)」
『和訳英辞書』 訳語「妖鬼(バケモノ) 小説の存在」
1872年 吉田賢輔 著『英和字典』 訳語「魔、 血ヲ吸フ鬼」
1873年 柴田昌吉, 子安峻 編『英和字彙 : 附音插図』 訳語「吸血鬼(チヲスフオニ)」
1882年 柴田昌吉, 子安峻 編『英和字彙 : 附音插図』 訳語「吸血鬼(ルビは無し)」
1884年 ロブシャイト著『英華字典』
中国語にはまだvampireの訳語に吸血鬼は無い。
→吸血鬼という言葉は日本で生まれた可能性が大きい。
1892年 『雙解英和大辞典 再版』
訳語「吸血鬼(小説ニ載セタル)、吸血蝙蝠(イラスト有り)」
1894年 『英和新辞林』 訳語「死霊、吸血鬼」
1893年 フィランジ・ダーサ 著『瑞派仏教学』 訳語「吸血鬼」
1897年 エッチ・ダブリュー・ウォルフ 著『国民銀行論』 訳語「吸血鬼」
1912年 田口桜村 著『黒手殺人団 : 探偵小説』 吸血魔を登場させる
吸血魔物語の章:血の伯爵夫人、エリザベート・バートリを模したと思われるシーン
1914年 ①芥川龍之介『クラリモンド』においてvampaireを「夜叉」と訳す。
②平井金三『三摩地:心身修養』 吸血鬼を「ちすいおに」として紹介。
アルノルト・パウル事件すら紹介している(282ページ)(別サイト掲載の物)
③押川春浪『怪風一陣:武侠小説』 「毒悪なる吸血鬼」
処女の生き血を吸うと記述のある箇所
1915年 南方熊楠「人類学雑誌」において「吸血鬼(ヴァムパイヤー)」と紹介する。
前年に芥川がvampireを「夜叉」と翻訳していたことから、
今までは 吸血鬼という言葉は南方熊楠造語説が有力視されていた。
1918年 『熟語本位英和中辭典』
訳語「芝居の舞台ににわかに出入りするに用いる落とし戸」
1925年 ①『英和辞典 : 発音引』 訳語「妖婦、男を弄んで金を巻き上げる女」
②『井上英和大辞典』 訳語「【劇】切穴、すっぽん」
参考:グールの訳語「発墓鬼」 ベルゼブブの訳語「サタン、悪魔」
→岡本綺堂はクラリモンド翻訳の際、参考にした可能性あり。
1929年 岡本綺堂『クラリモンド』においてvampireを「吸血鬼」と訳す。
1930年 ①『英語から生れた現代語の辭典』
訳語「毒婦の意にも用ふ、あの女優はヴァンパイア役が十八番だ」
②『モダン辞典』「吸血魔の意味から妖婦、妖婦役」「ヴァンプと云ふ」
1935年 『万国新語大辞典』 ヴァンプとはヴァンパイアの略
ヴァンプ女優の例として原駒子と鈴木澄子を挙げる。
1948年 寺田寅彦『コーヒー哲学序説』 吸血鬼を女性の意味で用いている(粉黛)
~参考書籍~
『吸血鬼の事典』:マシュー・バンソン・著/松田和也・訳/青土社/1994年
『吸血鬼幻想』:種村季弘/河出文庫/1983年
『図解吸血鬼』:森瀬 繚、静川龍宗/新紀元社/2006年
『血のアラベスク 吸血鬼読本』:須永朝彦/ペヨトル工房/1993年
『萌える!ヴァンパイア事典』:TEAS事務所/(株)ホビージャパン/2015年
『伝奇ノ匣9 ゴシック名訳集成 吸血鬼妖鬼譚』:東雅夫・編/学研M文庫/2008年
『書物の王国12 吸血鬼』:須永朝彦・東雅夫編纂/国書刊行会/1998年
『血と薔薇の誘う夜に 吸血鬼ホラー傑作選』:東雅夫編/角川ホラー文庫/2005年
今回紹介した藤村シシン先生の「古代ギリシャのリアル」。この本をきっかけにご助言を頂くことができました。
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