吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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私が「吸血鬼の歴史にハマる」10の理由【はてなブログ10周年特別お題企画】

はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由

 ニコニコのブロマガから移転してはや数か月、はてなブログの10周企画に乗じて、私が吸血鬼の歴史にハマった経緯を紹介しようかと思います。ニコニコ動画のゆっくり解説ではすでに言及していますが、ブログでも紹介していきます。


私が吸血鬼の歴史にハマった10の理由

  1. 漫画 平野耕太の「HELLSING」8巻のアーカードの旦那の零号開放

  2. ヘルシングのアーカードの旦那はドラキュラだった

  3. 原作のドラキュラは日光が平気だった

  4. 吸血鬼の元祖はストーカーの「ドラキュラ」でなく、ジョン・ポリドリの「吸血鬼」だった

  5. 有名な女吸血鬼カーミラのほうがドラキュラより先にできた作品だった

  6. 「最初の吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が同じ一夜がきっかけで生まれた

  7. 吸血鬼の牙が最初に生えた作品がきちんと判明していた

  8. 古典の吸血鬼は形が様々

  9. 海外には日本にない情報が沢山あり、そして未だに吸血鬼に関する新発見などがある

  10. 吸血鬼なんて血を吸っていればなんでもOK!


 吸血鬼にハマる理由というより、吸血鬼の歴史にハマったその経緯といったほうがいいでしょう。またお題に合わすべく、やや強引に理由をひねり出しました。ということで10個の理由をそれぞれ見ていきましょう。

漫画・平野耕太の「HELLSING」8巻のアーカードの旦那の零号開放


HELLSING
ヘルシング8巻が私を吸血鬼の道に引きずり込んだ


 平野耕太「HELLSING」は私的にお気に入りの漫画。このヘルシング8巻の展開は非常に衝撃的だった。これこそが私を吸血鬼の探求の道に引きずり込んだ元凶だ。

 詳細はピクシブ百科事典などを見てもらいたいが、知らない方に要点だけ説明すると、吸血鬼アーカードは「拘束制御術式」で段階的に力を抑えている。力を出し切っていない状態でもべらぼうに強いのだが、一番の本気モードはアーカードの主人インテグラの承認を得なければ開放できない。ヘルシング8巻ではついにその本気モードが開放されたのだが、それがもう衝撃的だった。吸血鬼アーカードがこれまで吸ってため込んだ全ての命を軍勢として開放するものだった。ワラキラ公国軍、イェニ=チェリ軍団、東欧の領民たち、これまでアーカードが戦ってきた吸血鬼たちなどを軍団として呼び出したのだ。そのシーンはまさに圧巻だった。アーカードが死なないのも、ため込んだ無数の命を先に消費しているため死ななかった。この本気モードアーカードは命全開放したけれども、命のストックがないので死ねば今度こそ本当に死ぬ状況なのに、形勢不利(?)になるみるやいなや、軍勢を残したままいくつかの命を戻して残機を増やすという、敵からすればこの上なく絶望な状況を作り出していた。

 この零号開放したとき敵の一人が、「この悪魔(ドラクル)、悪魔(ドラキュラ)……‼」というセリフがあるのだが、ここで初めてアーカードの旦那が、ブラム・ストーカー原作のあの吸血鬼ドラキュラであるということを初めて知った。こうして私はもととなったブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」に興味を覚え、ぜひ見てみようと思い立った。これが私の吸血鬼の探求のはじまりだった。

原作のドラキュラは日光が平気だった

 私が吸血鬼ドラキュラを読もうと思い立ったのは、たしか2007年。2000年に水声社版のものも出版されていたが、やはり入手難度からいえば、ドラキュラの翻訳ものといえば創元推理文庫から出版された平井呈一訳のものぐらいしかなかった。一通り読んで驚いたのは、ドラキュラが作中でどう考えても昼間に普通に出歩いているシーンがあったことだ。ヘルシングや当時話題になっていた月姫などでは吸血鬼は日光が平気であった。日光が平気な吸血鬼なんてやめろなどという意見もネット上では散見されるなか、私は「強い吸血鬼という設定なら、日光が平気な吸血鬼もありかな」と思っていた。だが吸血鬼は日光を浴びると燃えて灰になってしまうというのが常識だろう、日光が平気な設定はあくまで邪道ぐらいに思っていた。ところが原作のドラキュラがすでに日光が平気だと知ったときは驚くしかなかった。後に分かったことだが、日光を浴びれば灰になるというのは、1922年の小説ドラキュラを原作とした映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」から始まった設定であった。日光を浴びて灰になるというのは、吸血鬼の歴史からみれば後付けも後付け、むしろ昼間出歩くのが普通だった時代が長かったなどとは思いもしなかった。  日光の件でもおどろきだったのだが、巻末の平井呈一の解説でさらに驚かされるになった。

吸血鬼の元祖はストーカーの「ドラキュラ」でなく、ジョン・ポリドリの「吸血鬼」だった

有名な女吸血鬼カーミラのほうがドラキュラより先にできた作品だった

 平井呈一訳「吸血鬼ドラキュラ」の巻末解説には次の文から始まっている

近代ヨーロッパにおける吸血鬼をテーマにした最初の小説は、ジョン・ポリドリの”Vampyre"だというのが、今日では定説になっています。

 これを見た私は非常に驚愕した。だってドラキュラが吸血鬼の元祖だと思い込んでいたら、実はジョン・ポリドリの「吸血鬼」という作品が最初であると明言されていたからだ。そして調べてネットで検索してみれば、そもそも女吸血鬼として有名なレ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」もドラキュラより古い作品だった。いやそれどころか、ブラム・ストーカーは同郷で同じ大学の先輩のレ・ファニュの「カーミラ」を読んで、ドラキュラの執筆を決意したいたとは。もう驚きの連続であった。今やドラキュラはヴァンパイアの意味で使われるほど有名だというのに、ドラキュラより古い作品があったことに驚くしかなかった。

「最初の吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が同じ一夜がきっかけで生まれた

 さらに平井の解説を読み進めていくと、「最初の吸血鬼小説」はあのフランケンシュタインと同じディオダティ壮の怪奇談義と呼ばれる一夜がきっかけで生まれたと解説しているではないか!吸血鬼は、フランケンシュタイン、狼男とならんで西欧三大モンスターなどと呼ばれるが、そのうち2匹が同じ一夜がきっかけで生まれていたことが衝撃的だった。さきほどから「驚いた」とばかり言っているが、それほど驚きの連続だった。そしてさらに平井の解説を読み進めていくと、やはりドラキュラより古い作品として「吸血鬼ヴァーニー」なる小説があると言及していた。平井によれば「その文章の卑俗さはまるで香具師の絵看板でも見るような泥くさい感じ」と貶していたのだが、それがかえって私の興味をひくこととなった。そして検索してみれば日本語訳はないものの、「吸血鬼の牙が最初に生えた吸血鬼小説」と紹介しているウェブサイトがあった。そしてこの時初めて今や常識となった吸血鬼の牙にも、成立の歴史があるのだと知り、驚くばかりだった。吸血鬼とフランケンシュタインが同時に生まれたこと、吸血鬼ヴァーニーが最初に牙が生えた小説だということを知り、私は完全に吸血鬼の歴史に興味をもつこととなった。そこから吸血鬼の歴史の探求の道に入ることとなる。まずはジョン・ポリドリの「吸血鬼」が収録された「怪奇幻想の文学〈1〉真紅の法悦 (1969)」を入手した*1。真紅の法悦には種村季弘によるジョン・ポリドリの吸血鬼やフランケンシュタインにまつわる解説があり、これをみてドラキュラ以前にも吸血鬼大ブームがあったことを知り、ドラキュラなんて吸血鬼の歴史からみれば後発も後発作品であったと知った次第だ。この種村の解説はのちに「吸血鬼幻想」に収録されたので、興味がある方はぜひ。

 吸血鬼ヴァーニーに関してはまだ記事が作れていないが、最初の吸血鬼小説とフランケンシュタインとの関係は解説した記事を作った。日本では紹介されない貴重な情報も入った記事なのでぜひご覧いただきたい。

www.vampire-load-ruthven.com

古典の吸血鬼は形が様々

 2014年、ニコニコ動画で吸血鬼の歴史を解説しようと思い至った私は、まず予備知識としてドラキュラ以前の吸血鬼小説で日本語訳があるものに関しては、なるべく読むことにした。日本語訳があるものはそんなに数はないし、たいていが短編なのでそこまで大変な作業でもなかった。そして読んでいくと、ドラキュラ以前の吸血鬼はいろんな形があることを知った。今よく知られている吸血鬼の弱点なんて、ドラキュラ以前はほぼ見られないし、今の吸血鬼像とはかけはなれたものばかり。中にはこれ本当に吸血鬼か?なんて思う作品もあるが、確かに海外の評論家の間では吸血鬼作品としてあつかっているものもあった。そのなかでも理由に納得できるものもあれば納得できないものもあるし、そもそも吸血鬼要素が見えない作品まであった。以下の記事を見ればそのあたりのことは何となくご理解頂けるかと思う。

www.vampire-load-ruthven.com

海外には日本にない情報が沢山あり、そして未だに吸血鬼に関する新発見などがある

 ニコニコ動画やここで吸血鬼解説をするべく調査して分かったことであるが、吸血鬼の歴史にはいまだに新発見がある。日本では1990年代ぐらいの情報で止まっており、最新の研究結果は伝わっていないということに気が付いた。

 例えば、1800年にルートヴィヒ・ティークが作ったとされる、女吸血鬼が出てきた最初の小説だと紹介される「死者よ目覚めるなかれ」。実は海外ではすでに、本当の作者はエルンスト・ラウパッハであるとされていた。そもそもドイツ語圏では昔から正しい作者を認識しており、英米の研究者が誤情報から作者ティーク説を鵜呑みにし、日本でもその誤った情報が入り続けていただけだった。

www.vampire-load-ruthven.com

 他には「吸血鬼」という和製漢語を作ったのは南方熊楠であると考えられていたが、熊楠以前にも使われていた用例があり、明治時代にはすでに吸血鬼という言葉があったこと、これは当ブログで最初に紹介して大いに反響があった記事だ。

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 そしてまだ記事にはしていないが、ドラキュラにも影響を与えたとされる1860年作者不詳の「謎の男」という小説があるのだが、近年になって作者はカール・A・F・ワークスマンという人物であることが判明していた。そして1844年作ということは、どうも2017年になって判明したようだった。このように吸血鬼の歴史はまだまだ探る余地があり、そこが面白く感じる部分だ。

吸血鬼なんて血を吸っていればなんでもOK!

 こうして私は吸血鬼解説のために色々調査してきのだが、そこで実感したことは、「吸血鬼は血を吸っていればなんでもOK!」ということ。吸血鬼ドラキュラなんて、吸血鬼の歴史からみれば後発も後発。ドラキュラ以前の吸血鬼作品なんて日光は平気、弱点もない吸血鬼作品も多い。そもそも原作のドラキュラからして日光が平気。吸血鬼の歴史を知れば知るほど「吸血鬼なんて設定は自由にしていい、あるのは設定に対する好き嫌いのみ」という意見に収束する。吸血鬼って昔のほうがよっぽど好き勝手にしていたということが分かったことが、吸血鬼の歴史にハマった理由の一つだ。


 やや無理やり理由を作りましたが、以上が私が吸血鬼の歴史にハマった理由です。私は吸血鬼の歴史にハマりましたが、吸血鬼の創作自体には、実はあまり興味がなかったりします。なにがなんでも好きな吸血鬼作品は冒頭で述べたヘルシングぐらいなもので、ほかの吸血鬼漫画、映画、小説といった吸血鬼の作品には、あまり興味がわきません。あくまで興味があるのは「吸血鬼の形成にかかわる歴史的部分」です。吸血鬼の歴史に詳しい人は、怪奇幻想文学、あるいは吸血鬼の創作が好きで好きでたまらない、という人の場合が多いので、吸血鬼界隈から見れば私は異端かと思います。

 ニコニコ動画で吸血鬼解説動画を作ろうと決意したのは、ネット上であまりにも「小説ドラキュラすらも読まず、知ったかぶりを披露する人が多すぎるから啓蒙活動しよう」という理由でした。だが調査を進めるうちに、海外のサイトには日本の書籍では紹介されたことがない、面白い情報が沢山眠っていることに気が付きました。こうした情報を一人で抱えていてはもったいない、ぜひその知識を共有したいと思い、今では動画やブログで吸血鬼情報を発信しています。

 動画もブログもゆっくり進行ですが、ぜひ今後もご覧いただけると嬉しく思います。

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*1:当時は平井呈一訳のものしかないと思っていた。後に佐藤春夫訳、今本渉訳があることを知った。平井呈一訳は長らく入手が難しかったが、2019年「幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) 、2021年「甘美で痛いキス 吸血鬼コンピレーション」に収録されて、今ではむしろ入手しやすくなった