吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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「吸血鬼文学名作選」(東雅夫編)に、当ブログが紹介されました【レビューもあり】

吸血鬼文学名作選



 2022年6月30日、創元推理文庫から東雅夫編「吸血鬼文学名作選」が刊行されました。東雅夫氏はこれまでにも、「血と薔薇の誘う夜に」:角川ホラー文庫(2005)、「ゴシック名訳集成 吸血妖鬼譚―伝奇ノ匣〈9〉」:学研M文庫(2008)といった吸血鬼アンソロジーを送り出してきましたが、今年になって久々に吸血鬼アンソロジーを刊行されということになります。


 その「吸血鬼文学名作選」ですが……なんと今回このアンソロジーにおいて東雅夫氏が、参考すべきサイトとして当ブログをご紹介して下さっておりました!!


 こうしてニコニコ動画やブログで吸血鬼の啓蒙活動をしてきてよかったなと思えた瞬間でした。自慢話となってしまいますが、簡単に事の経緯を紹介していきたいと思います。勿論、吸血鬼を解説する当ブログの本旨として、収録された作品のレビュー・感想も簡単にだけ紹介していきます。

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切り裂きジャックは自首して逮捕されていた!?研究者すら知らなかったその犯人を本邦初公開!

前回・前々回の記事
www.vampire-load-ruthven.com
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 前回、アイスランド語版とスウェーデン語版のブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」である「闇の力」を解説してきた。アイスランド版もスウェーデン語も、その実態を研究したのは、吸血鬼ドラキュラの世界的な団体に所属しているオランダ人の研究者、ハンス・デ・ルース氏だ。彼は、スウェーデン語版のドラキュラは、作者ストーカーの許可を得ずして勝手に改変した海賊版である可能性が高いこと、そしてアイスランド版はそのスウェーデン語版からかなり省略して翻訳したものであることを、2021年にブラショフ・トランシルヴァニア大学の紀要論文として発表した。


 そんなデ・ルースは調査の途中で、ある興味深いことを突き止めていた。それはアイスランドやスウェーデンの当時の新聞を見てみると、あの切り裂きジャックが自首して逮捕されていたという報道記事を見つけていたことだ。これの何が凄いのかというと、切り裂きジャックとされた人物は何名もいるが、その逮捕されたという人物は、切り裂きジャックの研究者すら把握していなかったという事実だ。


 そんな切り裂きジャックに関して、研究者ですら知らない容疑者がいたという件は、当然日本で紹介する人は見たことがない。こんな面白い話を紹介しないというのは、なんとももったいない話だろう。ということで、当ブログの吸血鬼を紹介するという趣旨からは外れるが、歴史から忘れ去られた「自首して逮捕された切り裂きジャック」について紹介していきたい。


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闇の力②:スウェーデン語版「ドラキュラ」である"Powers of Darkness"は、作者の許可を得なかった海賊版だったことが判明


前回の記事
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 前回のアイスランド版ドラキュラ「闇の力」の解説記事からの続きとなる。前回説明したように、リチャード・ダルビーは1986年、1900年のアイスランド語版ドラキュラに1897年のオリジナルの英語版ドラキュラにはない作者ブラム・ストーカーの序文が付けられていたことを発見、当時の研究者やドラキュラファンを大いに驚かせた。なにせ研究者がずっと気が付かなかったし、内容をよく見るとオリジナルの英語版から大胆に改変されており、しかもストーカーが残した初期草稿からのシーンもあった、つまりストーカーによる大胆な改変・完全版ドラキュラかと思われたからだ。


 だが2017年に、アイスランド語版はスウェーデン語版から明らかに翻訳されたもの、しかも抄訳というか要約版ともいうべきものだったことが判明する。そしてそのスウェーデン語版ドラキュラは、ストーカーの許可を得ずして勝手に改変した海賊版である可能性が極めて高いことが、去年2021年に明らかにされた。今回はそのスウェーデン語版ドラキュラ「闇の力」、原語"Mörkrets makter"(マーケッツ・マクター)を解説していく。このスウェーデン語版に関する一連の流れも、前回のアイスランド版と同様、日本ではツイッターで少数の人が紹介するだけにとどまる。前回紹介したアイスランド語版ドラキュラが絡んでくるので、先にそちらをみてからご覧頂きたい。ニコニコ動画で先行して解説しているので、よろしければぜひそちらもご覧頂きたい。


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闇の力①:アイスランド語版「吸血鬼ドラキュラ」である"Powers of Darkness"が、30年以上経てようやく真相が明らかに


 数多くあるヴァンパイア作品の中で、代表的な作品と言えば何と言っても1897年のブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」であり、それに反論する人はいないだろう。なぜなら「ドラキュラ」は個人名なのに、普通名詞の「ヴァンパイア(吸血鬼)」の意味で誤用されることもあるぐらいだし、女性形のドラキュリーナという言葉も生まれている。吸血鬼作品はドラキュラ以前にもいくつも作られてきたが、今の吸血鬼像は大体ドラキュラから始まっており、吸血鬼のスタンダードモデルとなった作品だ。


 今回は、そんな吸血鬼の代名詞となったドラキュラの、1901年に連載されたアイスランド語版と1899年に連載されたスウェーデン語版の小説「吸血鬼ドラキュラ」について紹介していきたい。この2つはブラム・ストーカーの名前で連載されておきながら、その中身は1897年の英語版オリジナルとはかけ離れていた。特にアイスランド語版は、1986年の発見当初は外国語に翻訳された最初のドラキュラであり、またストーカーが初期草稿を元にした改訂版・完全版であるとも思われ、海外の研究者やドラキュラファン界隈で当時騒然となったほどだ。


 だが先に結論を言ってしまうと、アイスランド語版はスウェーデン語版から翻訳されたものであることが、2017年に判明した。そしてそのスウェーデン語版も、原作者ブラム・ストーカーの許可を得ずに勝手に改変した海賊版である可能性が高いことが、去年2021年に発表された。1986年に発見されてから実に35年もの年月がかかってようやく去年、その全容が明らかとなった。この件は英語圏のドラキュラファンの間では一番ホットな話題と言えるだろう。だが日本では紹介するサイトは見受けられず、少数の人がツイッターで紹介するぐらいだ*1。以前はアイスランド語版に関しては紹介する記事もあったのだが、現在では削除されたようだ。ということで、今回はアイスランド語版、次回の記事でスウェーデン語版吸血鬼ドラキュラである「闇の力」について解説していく。実はニコニコ動画で既に解説済みなので、よろしければ動画の方もぜひご覧ください。


*1:私はSNSはツイッターしかやっていない。Facebook等も調べれば紹介している人もいるかもしれない。いずれにせよ、検索にヒットしないあたり、あまり知られていないものとして扱ってよいだろう。

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吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか【ピーター・ヘイニングの捏造疑惑⑧】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?
(ヘイニングの不正を知る前の記事)
女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて
古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
女性で最初に吸血鬼小説を書いたエリザベス・グレイという作家は存在していなかった
ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーに関する捏造
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?
⑧この記事
【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルの捏造


 吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」(以降、「死者を起こすことなかれ」と表記)は長年、作者はドイツのヨハン・ルートヴィヒ・ティークとされ、1800年に発表されたものだとして紹介され続けてきた。だが、本当の作者はエルンスト・ラウパッハであり、その作者を間違えた紹介したのは、英国のアンソロジスト・故ピーター・ヘイニングが1972年に出したアンソロジーが原因であることが判明していた。その件を日本においては紹介したのは2017年、私がニコニコのブロマガで投稿した記事が最初であろう*1。私がこの件を初めて知ったのは、ジョージア大学ハイド・クロフォード講師の2012年と2016年の論文であり、クロフォードの論文を紹介しつつ、私のブログで紹介させてもらった。


 2017年当時ブログで紹介した時、一つだけ不明なことがあり、それが気になって仕方がなかった。ヘイニングが「死者を起こすことなかれ」の作者を間違えたことは事実、だが彼は作品の発表年月日については、1800年作とは言ってないどころか、一切言及していない。それにもかかわらず、日本の複数の書籍で「1800年作」と紹介されている。2017年、作者取り違えの件についてブログで解説したときは、なぜ間違えたのか理由が皆目見当がつかなかったが、最近になって調査する手段が見いだせた。そして確定とはいかないが、ある程度筋の通った推測を立てることができた。しかも、日本において作者間違いが広がった原因は、ピーター・ヘイニングは関係がなさそうであるということまで判明した。ヘイニングは色々と捏造疑惑がある人物ではあるが、こと日本においては彼は無関係の可能性が高い*2。よって今回はそのあたりを解説していきたい。できれば下記の過去記事2つをご覧頂いたほうが、話の流れが分かり易いかと思います。

過去記事①(ニコニコブロマガ版とはてなブログ移行版)
site.nicovideo.jp
www.vampire-load-ruthven.com

過去記事②
www.vampire-load-ruthven.com

*1:少なくとも私以前(2017年以前)に、本当の作者を言及した人や書籍は見たことがない

*2:勿論、英語圏で作者間違いが広めることとなった元凶は、ヘイニングが主な要因だと言えるだろう。

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吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?【捏造シリーズ⑦】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?
(ヘイニングの不正を知る前の記事)
女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて
古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
女性で最初に吸血鬼小説を書いたエリザベス・グレイという作家は存在していなかった
ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーに関する捏造
⑦この記事
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか
【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルの捏造

 吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」という作品は、日本では長らく作者はドイツのヨハン・ルートヴィヒ・ティークの作品で、1800年作であると紹介されていた。だが本当の作者はドイツの多作劇作家、エルンスト・ラウパッハであり、初出は1823年であった。日本で間違えて紹介され続けたのは、1994年のマシュー・バンソン「吸血鬼の事典」の影響だろう。だが、そもそも間違いが広まった原因は、英国のアンソロジスト、故・ピーター・ヘイニングのアンソロジーからだとされていた。その経緯を日本で最初に紹介したのは、2017年に私がニコニコのブロマガで投稿した記事だろう。当時はピーター・ヘイニングの数々の捏造疑惑を知らなかったので、ヘイニングの単純ミスではないかとして紹介した。だがヘイニングの数々の怪しい疑惑を知った現在では、「いつものヘイニングの捏造案件」であると思っていた。


 ところが、あるきっかけで色々調査をしていたら、ヘイニングよりも前に作者をルートヴィヒ・ティークだと間違えて紹介していた人を発見した。これまで私はヘイニングの「いつもの捏造」と言いきってしまっていたが、そうでない可能性が浮上した。そして今まで私が見てきた資料をよく読めば、ヘイニングのせいとは言いきれないことも読み取れることが判明。今回はその経緯と検証結果を紹介していきたい。できれば過去記事を読んで経緯を知ってから、この記事をご覧頂きたい。


過去記事(ニコニコブロマガ版)
site.nicovideo.jp
過去記事(はてなブログ移行版)
www.vampire-load-ruthven.com

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ポール・バーバー著「ヴァンパイアと屍体」:「蹄鉄や手榴弾の場合と同じ」とはどういう意味なのか

ヴァンパイアと屍体
ヴァンパイアと屍体 新装版

 2022年5月26日に、工作舎よりポール・バーバー・著/野村美紀子・訳「ヴァンパイアと屍体 死と埋葬のフォークロア」の新装版が発売された。これは1991年翻訳・発売されたものであるが、復刊の要望が多かったらしく、今回装いを新たにして発売された。これは吸血鬼と言う存在を現代法医学の観点から詳細に分析し解説した書籍。吸血鬼には「杭で心臓刺せば死ぬ」「ニンニクが弱点」「物を数える習性がある」といった弱点があり、その弱点の理由を考察したり議論する場面をネット上のどこかしらで見かけることがあるが、そうした疑問に、容赦なくその理由を答えてくれる書籍である。吸血鬼の弱点は科学知識を持たない当時の人たちが、一生懸命考えた末の結論であることがわかるだろう。著者のポール・バーバー博士はドイツ文学専攻、民俗学が専門であるが、法医学的観点から吸血鬼を論じたこの書籍は、民俗学はおろか医学会からも称賛を受けたという、大変信頼のおける吸血鬼研究本である。吸血鬼退治にも科学知識が全く持っていなかった人たちが、工夫していたことが分かる。アニメや漫画の吸血鬼しか知らない人が読めば、吸血鬼イメージがぶち壊れてしまうかもしれない一冊である。


 さてそんな本が30年以上の時を経てカバーデザインを新しくして再版されたのだが、旧版のときから一つだけずっと気になっていたことがあった。それは本文中に「手榴弾」という言葉が出てくるのである。この手榴弾という訳は当然誤訳であると思っていたのだが、今回の新装版でもそのままであった。そこで急遽調べてみたら誤訳ではなく、英語圏には古くからある慣用句の意味で使っていたことがわかった。実は数年前ニコニコ動画では誤訳と決めつけて紹介してしまっていた。知らなかったとはいえ間違いと決めつけてしまったことは事実。今回はその私の思い込み故の恥を紹介していきたい。

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