数多くあるヴァンパイア作品の中で、代表的な作品と言えば何と言っても1897年のブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」であり、それに反論する人はいないだろう。なぜなら「ドラキュラ」は個人名なのに、普通名詞の「ヴァンパイア(吸血鬼)」の意味で誤用されることもあるぐらいだし、女性形のドラキュリーナという言葉も生まれている。吸血鬼作品はドラキュラ以前にもいくつも作られてきたが、今の吸血鬼像は大体ドラキュラから始まっており、吸血鬼のスタンダードモデルとなった作品だ。
今回は、そんな吸血鬼の代名詞となったドラキュラの、1901年に連載されたアイスランド語版と1899年に連載されたスウェーデン語版の小説「吸血鬼ドラキュラ」について紹介していきたい。この2つはブラム・ストーカーの名前で連載されておきながら、その中身は1897年の英語版オリジナルとはかけ離れていた。特にアイスランド語版は、1986年の発見当初は外国語に翻訳された最初のドラキュラであり、またストーカーが初期草稿を元にした改訂版・完全版であるとも思われ、海外の研究者やドラキュラファン界隈で当時騒然となったほどだ。
だが先に結論を言ってしまうと、アイスランド語版はスウェーデン語版から翻訳されたものであることが、2017年に判明した。そしてそのスウェーデン語版も、原作者ブラム・ストーカーの許可を得ずに勝手に改変した海賊版である可能性が高いことが、去年2021年に発表された。1986年に発見されてから実に35年もの年月がかかってようやく去年、その全容が明らかとなった。この件は英語圏のドラキュラファンの間では一番ホットな話題と言えるだろう。だが日本では紹介するサイトは見受けられず、少数の人がツイッターで紹介するぐらいだ*1。以前はアイスランド語版に関しては紹介する記事もあったのだが、現在では削除されたようだ。ということで、今回はアイスランド語版、次回の記事でスウェーデン語版吸血鬼ドラキュラである「闇の力」について解説していく。実はニコニコ動画で既に解説済みなので、よろしければ動画の方もぜひご覧ください。
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