シリーズ目次(クリックで展開)
⓪吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?(ヘイニングの不正を知る前の記事)
①女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて
②古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
③ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
④この記事
⑤ ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
⑥ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーなど、まだまだある捏造疑惑
⑦吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?
⑧吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか
⑨【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
⑩アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルの捏造
前回の記事の続きより。女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵(1828)」は、イギリスのアンソロジスト、故ピーター・ヘイニングにより初めて紹介されたが、海外では現在ヘイニングによる捏造と考えられている。そのように思われてしまう理由は、ヘイニングには数々の不正疑惑があるから。「スウィーニー・トッド」「バネ足ジャック」などのイギリスの都市伝説に関しては実在していたと主張するも、検証可能な証拠は何一つ見せてこなかった。ルートヴィヒ・ティーク作「死者よ目覚めるなかれ」や、ホレス・ウォルポールの「マダレーナ」は、本当の作者は別にいたことが判明、マイナーなことを利用して作者を偽った可能性が非常に大きい。たとえ真面目に調査をしたのなら、調査や検証があまりにも杜撰すぎる。そしてヘイニングが発掘したという「フランケンシュタインの古塔」は、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」に影響を与えたと主張するも、その「新発掘」した証拠品は一切見せず、逆にヘイニングの主張がかぎりなく嘘である証拠が見つかるほどだ。これを紹介した荒俣宏は「ヘイニングによる捏造だろう。それどころから彼は他にも同じ手法で「珍品」を捏造した過去がある」と言いきるほど。そしてまだ紹介していないが、ヘイニングはイギリス怪奇小説の巨匠、M・R・ジェイムズに関しても数々のでっちあげを行っている。こうした背景があるからか、ヘイニングが160年ぶりに発掘したというエリザベス・グレイの吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」も、彼による捏造だろうと考えられている。実際、「骸骨伯爵」の実物の書誌は、彼は一切公開していない。
だが前回の記事の終わり際でも述べたが「骸骨伯爵」の作者、エリザベス・グレイのことを再調査してみると、さらにとんでもない事実が判明した。なんとエリザベス・グレイという人も、実在せず捏造された存在であったことが判明した。だがエリザベス・グレイを捏造したのは、ピーター・ヘイニングではない。モンタギュー・サマーズ師が彼女の小説「手探りの試練」の書評を、ヘイニングが生まれた1940年に発表しているからだ。そう、ヘイニングはエリザベス・グレイが捏造された存在とは知らずに、「骸骨伯爵」は彼女の作品であると発表してしまった。このことからも「骸骨伯爵」という作品の実在性とヘイニングの主張が、極めて疑わしくなった。ということで、このあたりの経緯を詳しく説明していこう。