吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて【ピーター・ヘイニングの捏造疑惑①】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?(ヘイニングの不正を知る前の記事)
①この記事
古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
女性で最初に吸血鬼小説を書いたエリザベス・グレイという作家は存在していなかった
ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーなど、まだまだある捏造疑惑
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか
【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルの捏造


 エリザベス・キャロライン・グレイが1828年に作り、英国のアンソロジストのピーター・ヘイニングにより1995年に初めて紹介された吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」"The Skeleton Count, or The Vampire Mistress"という作品が、イギリスの有名なホラー・アンソロジストであった故ピーター・ヘイニングによる捏造作品である可能性が極めて高いことが判明しました。そして「骸骨伯爵」を発端に、イギリスでホラー・アンソロジストとして名を馳せたピーター・ヘイニングという人物が、過去の功績が実は数々の不正をしていた可能性が極めて高いことも判明しました。


 実はニコニコ動画の方では既に解説済みで文章であとで残そうと思っていたらずるずると伸びたので、「吸血鬼の元祖」解説シリーズは少しお休みして、今回紹介することにしました。ピーター・ヘイニングはその筋では有名な方なのですが、彼の功績が不正によって得られた可能性が高いことについては、日本ではほぼ知られていないと思われます。


 「骸骨伯爵」と聞いてもどんな作品なのか知らない方が大半だと思われるので、「骸骨伯爵」のこれまでの立ち位置から説明していきます。ニコニコ動画では既に解説済みであるので、結論を早く知りたい方は、下記の動画をご覧ください。

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ニコニコ動画「マルシュナーのオペラ『吸血鬼』の演奏を比較する動画を投稿しました

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

年始早々、下の動画を投稿したのでご紹介します。

上記動画を解説した以前の記事

www.vampire-load-ruthven.com

www.vampire-load-ruthven.com

 上記の記事で散々紹介した、ハインリヒ・マルシュナー作曲のオペラ「吸血鬼」"Der Vampyr"、Youtube上にはパブリック・ドメインの動画が幾つかアップロードされています。それぞれの一部のシーンを抜き出し、それを比較する動画をニコニコ動画に投稿したので、是非ご覧ください。歌詞に翻訳を付けて、大まかなストーリー解説も行いましたので、全体のストーリーがなんとなくつかめるかと思います。尚、今回紹介したYoutube上にある動画は下記の3つです。

普通版(2002年 LOLA版)


ソープ・オペラ版(1992年 英国BBC放送版)


クソオペラ版(2008年 フランス・メッツォTV作成版)

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私が「吸血鬼の歴史にハマる」10の理由【はてなブログ10周年特別お題企画】

はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由

 ニコニコのブロマガから移転してはや数か月、はてなブログの10周企画に乗じて、私が吸血鬼の歴史にハマった経緯を紹介しようかと思います。ニコニコ動画のゆっくり解説ではすでに言及していますが、ブログでも紹介していきます。


私が吸血鬼の歴史にハマった10の理由

  1. 漫画 平野耕太の「HELLSING」8巻のアーカードの旦那の零号開放

  2. ヘルシングのアーカードの旦那はドラキュラだった

  3. 原作のドラキュラは日光が平気だった

  4. 吸血鬼の元祖はストーカーの「ドラキュラ」でなく、ジョン・ポリドリの「吸血鬼」だった

  5. 有名な女吸血鬼カーミラのほうがドラキュラより先にできた作品だった

  6. 「最初の吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が同じ一夜がきっかけで生まれた

  7. 吸血鬼の牙が最初に生えた作品がきちんと判明していた

  8. 古典の吸血鬼は形が様々

  9. 海外には日本にない情報が沢山あり、そして未だに吸血鬼に関する新発見などがある

  10. 吸血鬼なんて血を吸っていればなんでもOK!

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当ブログで紹介した「吸血鬼」という単語の成立の新発見の件が、ついに書籍で紹介されました。

 私のニコニコ動画による吸血鬼解説動画、そしてニコニコのブロマガ時代でとくに反響があった記事、それは「英語”vampire”の訳に「吸血鬼」と最初に宛てたのは、これまでは南方熊楠であったと考えられてきたが、それが覆ったという件」です。それを最初に発見したのは私ではありませんが、最初に紹介したのは、私のニコニコ動画とブログ記事です。これまでは私のブログや動画でしか紹介していない大変貴重な情報でしたが*1ついにきちんとした書籍で紹介されました。それどころか、超大物作家にまで知れ渡っておりました。
 もはや数か月前の出来事ではありますが、遅らせばながら今回ぜひ紹介したいと思います。

*1:実際には最初に新発見をした烏山奏春氏もご自身の同人誌で発表されているが、現在は入手不可能。また私のブログを参考に卒論を作成された方がおり、そこでも紹介されている。詳細はリンク先参照

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【6周年】ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼:動画の内容が本で紹介されました」を投稿しました【1年ぶり】

 先日8月26日にニコニコ動画に「動画の内容が本で紹介されました:ゆっくりと学ぶ吸血鬼」を投稿しました。ぜひご覧になってみてください。

 ブログから入った方に説明すると、はじめにのページでも申し上げましたが、私はブログよりも6年前からニコニコ動画で吸血鬼の解説動画を投稿しておりました。上記の動画は1年ぶりの投稿で6周年記念動画となります。内容としては、 『吸血鬼』という和製漢語を生み出したのは南方熊楠…という説が覆った!プロの評論家からのお墨付きも頂きましたの内容に関するものです。近日中に記事にもする予定ですが、せひ動画のほうもご覧になってみてください。

www.vampire-load-ruthven.com

 一応こちらでも告知。私はニコニコのブロマガに吸血鬼解説記事を投稿しておりましたが、ブロマガ終了に伴いこちらに引っ越してきました。当初はブロマガはすべて削除されるということでしたが、投票により一部残すことが決まりました。私の吸血鬼記事は日本では一番最初に紹介したものも多く、先見性を示すためにも残したいと思っております。ぜひブロマガ記事にご投票いただきたいと思います。詳しくは下記記事をご覧ください。

ch.nicovideo.jp

日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ【吸血鬼の元祖解説⑧】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
⑧この記事

  • マルシュナーのオペラ「吸血鬼」の各ルスヴン卿
  • 至ってノーマルなオペラ「吸血鬼」
  • ”イチモツ”をさらけ出した現代アレンジ版
  • ゾンビになった吸血鬼
  • 日本に喧嘩売ったクソオペラ版

マルシュナーのオペラ「吸血鬼」の各ルスヴン卿

 前回の続きより。1828年に初演されたウォールブリュック台本、作曲ハインリヒ・マルシュナーのオペラ「吸血鬼」”Der Vampyr”。現在はハンス・プフィッツナーの1924年改稿版が通常上演される。21世紀でも上演されており、Youtubuでもいくつか公開されている。まずは各オペラの吸血鬼ルスヴン卿の画像を見て頂きたい。前回記事でも述べたが、ドイツ語の発音ではルートヴェン卿あるいはルートフェン卿となるが、イギリスのジョン・ポリドリの小説「吸血鬼」のルスヴン卿が元ネタなので、ここでは今までの解説の経緯も含めてルスヴン卿で統一する。


ルスヴン卿リプリー
左:2002年 右:1992年
ルスヴン卿ルスヴン卿
左:2016年 右:2008年

 上記は全部マルシュナーのオペラ「吸血鬼」に登場する、吸血鬼ルスヴン卿である。つまり、同一人物であるが……


ヴァンパイア吸血鬼


2008年だけおかしーだろ!なんだよこれwww
日本に喧嘩売ってんのか!!!

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ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた【吸血鬼の元祖解説⑦】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
⑦この記事
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

  • ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛
  • 特にフランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」、勝手な続編も
  • フランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」の劇
  • 吸血鬼の劇はあの大デュマの運命を変えた
  • 劇でも「吸血鬼」と「フランケンシュタイン」は縁がある
  • オペラやバレエまでに発展したポリドリの「吸血鬼」
  • 補足① フェヴァル作「吸血鬼の息子」は、1820年作ではない?
  • 補足②「吸血鬼のお年玉」は正しい翻訳なのか?

ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛

 前回の続きより解説していこう。今回はポリドリの「吸血鬼」から派生した作品群を紹介していくが、その物語の内容については後日、ポリドリの「吸血鬼」と共に対比させる形で紹介していきたい。今回は、ポリドリの「吸血鬼」から派生した作品が作られた歴史的な流れと、そのエピソードを中心に解説していく。


 ポリドリの「吸血鬼」は編集者の思惑により、バイロンの作品として発表されてしまった。ポリドリ、バイロン双方から正しい作者を公開するように要請があったにも関わらず、修正はされなかった。良くも悪くも有名なバイロンの作品とした方が売れると思ったためで、実際ポリドリの「吸血鬼」はイギリスではその年の内に7版(註1)も重版がかかるほど、人気を博した*1。前回も説明したが、その人気は国内にとどまらず、ヨーロッパ中に瞬く間に広まった。まずフランスに伝播、アンリ・ファーベルが「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説(Le Vampire, nouvelle traduite de l'anglais de lord Byron)」という題名で翻訳した*2*3*4

*1:矮小化されるルスヴン卿 --1820年代の仏独演劇におけるヴァンパイア像--
森口大地 京都大学大学院独文研究室 2020/01 p.2

*2:「矮小化されるルスヴン卿」 森口大地 p.5

*3:"Le Vampire (nouvelle)" 仏語wikipedia記事

*4:種村季弘「吸血鬼幻想」: 薔薇十字社版(1970) p.131 河出文庫版(1983) p.172
種村は、アンリ・ファーベルは「ルスヴン卿」というタイトルにしたと説明しているが、森口は「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説」というタイトルにしたと述べる。森口の解説を裏付ける実物の画像を見つけたことから、森口の説明が正しいと判断した。

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