吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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当ブログで紹介した「吸血鬼」という単語の成立の新発見の件が、ついに書籍で紹介されました。

 私のニコニコ動画による吸血鬼解説動画、そしてニコニコのブロマガ時代でとくに反響があった記事、それは「英語”vampire”の訳に「吸血鬼」と最初に宛てたのは、これまでは南方熊楠であったと考えられてきたが、それが覆ったという件」です。それを最初に発見したのは私ではありませんが、最初に紹介したのは、私のニコニコ動画とブログ記事です。これまでは私のブログや動画でしか紹介していない大変貴重な情報でしたが*1ついにきちんとした書籍で紹介されました。それどころか、超大物作家にまで知れ渡っておりました。
 もはや数か月前の出来事ではありますが、遅らせばながら今回ぜひ紹介したいと思います。

*1:実際には最初に新発見をした烏山奏春氏もご自身の同人誌で発表されているが、現在は入手不可能。また私のブログを参考に卒論を作成された方がおり、そこでも紹介されている。詳細はリンク先参照

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【6周年】ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼:動画の内容が本で紹介されました」を投稿しました【1年ぶり】

 先日8月26日にニコニコ動画に「動画の内容が本で紹介されました:ゆっくりと学ぶ吸血鬼」を投稿しました。ぜひご覧になってみてください。

 ブログから入った方に説明すると、はじめにのページでも申し上げましたが、私はブログよりも6年前からニコニコ動画で吸血鬼の解説動画を投稿しておりました。上記の動画は1年ぶりの投稿で6周年記念動画となります。内容としては、 『吸血鬼』という和製漢語を生み出したのは南方熊楠…という説が覆った!プロの評論家からのお墨付きも頂きましたの内容に関するものです。近日中に記事にもする予定ですが、せひ動画のほうもご覧になってみてください。

www.vampire-load-ruthven.com

 一応こちらでも告知。私はニコニコのブロマガに吸血鬼解説記事を投稿しておりましたが、ブロマガ終了に伴いこちらに引っ越してきました。当初はブロマガはすべて削除されるということでしたが、投票により一部残すことが決まりました。私の吸血鬼記事は日本では一番最初に紹介したものも多く、先見性を示すためにも残したいと思っております。ぜひブロマガ記事にご投票いただきたいと思います。詳しくは下記記事をご覧ください。

ch.nicovideo.jp

日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ【吸血鬼の元祖解説⑧】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
⑧この記事

  • マルシュナーのオペラ「吸血鬼」の各ルスヴン卿
  • 至ってノーマルなオペラ「吸血鬼」
  • ”イチモツ”をさらけ出した現代アレンジ版
  • ゾンビになった吸血鬼
  • 日本に喧嘩売ったクソオペラ版

マルシュナーのオペラ「吸血鬼」の各ルスヴン卿

 前回の続きより。1828年に初演されたウォールブリュック台本、作曲ハインリヒ・マルシュナーのオペラ「吸血鬼」”Der Vampyr”。現在はハンス・プフィッツナーの1924年改稿版が通常上演される。21世紀でも上演されており、Youtubuでもいくつか公開されている。まずは各オペラの吸血鬼ルスヴン卿の画像を見て頂きたい。前回記事でも述べたが、ドイツ語の発音ではルートヴェン卿あるいはルートフェン卿となるが、イギリスのジョン・ポリドリの小説「吸血鬼」のルスヴン卿が元ネタなので、ここでは今までの解説の経緯も含めてルスヴン卿で統一する。


ルスヴン卿リプリー
左:2002年 右:1992年
ルスヴン卿ルスヴン卿
左:2016年 右:2008年

 上記は全部マルシュナーのオペラ「吸血鬼」に登場する、吸血鬼ルスヴン卿である。つまり、同一人物であるが……


ヴァンパイア吸血鬼


2008年だけおかしーだろ!なんだよこれwww
日本に喧嘩売ってんのか!!!

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ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた【吸血鬼の元祖解説⑦】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
⑦この記事
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

  • ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛
  • 特にフランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」、勝手な続編も
  • フランスで大流行するポリドリの「吸血鬼」の劇
  • 吸血鬼の劇はあの大デュマの運命を変えた
  • 劇でも「吸血鬼」と「フランケンシュタイン」は縁がある
  • オペラやバレエまでに発展したポリドリの「吸血鬼」
  • 補足① フェヴァル作「吸血鬼の息子」は、1820年作ではない?
  • 補足②「吸血鬼のお年玉」は正しい翻訳なのか?

ヨーロッパ中で人気となった小説「吸血鬼」、あのゲーテも大絶賛

 前回の続きより解説していこう。今回はポリドリの「吸血鬼」から派生した作品群を紹介していくが、その物語の内容については後日、ポリドリの「吸血鬼」と共に対比させる形で紹介していきたい。今回は、ポリドリの「吸血鬼」から派生した作品が作られた歴史的な流れと、そのエピソードを中心に解説していく。


 ポリドリの「吸血鬼」は編集者の思惑により、バイロンの作品として発表されてしまった。ポリドリ、バイロン双方から正しい作者を公開するように要請があったにも関わらず、修正はされなかった。良くも悪くも有名なバイロンの作品とした方が売れると思ったためで、実際ポリドリの「吸血鬼」はイギリスではその年の内に7版(註1)も重版がかかるほど、人気を博した*1。前回も説明したが、その人気は国内にとどまらず、ヨーロッパ中に瞬く間に広まった。まずフランスに伝播、アンリ・ファーベルが「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説(Le Vampire, nouvelle traduite de l'anglais de lord Byron)」という題名で翻訳した*2*3*4

*1:矮小化されるルスヴン卿 --1820年代の仏独演劇におけるヴァンパイア像--
森口大地 京都大学大学院独文研究室 2020/01 p.2

*2:「矮小化されるルスヴン卿」 森口大地 p.5

*3:"Le Vampire (nouvelle)" 仏語wikipedia記事

*4:種村季弘「吸血鬼幻想」: 薔薇十字社版(1970) p.131 河出文庫版(1983) p.172
種村は、アンリ・ファーベルは「ルスヴン卿」というタイトルにしたと説明しているが、森口は「ヴァンパイア、英語から訳されたバイロン卿の小説」というタイトルにしたと述べる。森口の解説を裏付ける実物の画像を見つけたことから、森口の説明が正しいと判断した。

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最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち【吸血鬼の元祖解説⑥】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
⑥この記事
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

  • 当時の出版事情:作家の力は弱かった
  • 盗作疑惑をかけられるポリドリ、そして自殺
  • バイロン卿と吸血鬼ルスヴン卿、その共通点

当時の出版事情:作家の力は弱かった

 前回”最初の吸血鬼””フランケンシュタイン”が同時に生まれるきっかけとなった歴史的一夜、ディオダティ荘の怪奇談義について解説した。今回からはいよいよ、その怪奇談義によって生まれた”最初の吸血鬼小説”について解説していこう。とくに今回は、日本の書籍や論文ではこれまで紹介されたことがないエピソードを紹介していくので、ご期待頂きたい。

 前回説明したようにポリドリが書いた「吸血鬼」は、どういう訳か作者はポリドリではなく、ポリドリが侍医として仕えていた主人のバイロン卿の名で出版されてしまった。この事情を知るには、わき道に逸れてしまうが当時の出版事情について、ざっくり知っておく必要がある。荒俣宏のアンソロジー「怪奇文学大山脈Ⅰ巻 西洋近代名作選 19世紀再興篇」:東京創元社(2014)において、荒俣が当時の西欧における出版事情について詳しく解説している。そしてせっかくなので、興味深いエピソードもついでに紹介しておこう。

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『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」【吸血鬼の元祖解説⑤】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放
⑤この記事
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

  • 最初の吸血鬼小説の作者とバイロン卿との出会い
  • ディオダティ荘に集結するバイロン一行
  • 歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
  • 詩人バイロン卿と吸血鬼ルスヴン卿の共通点
  • 【補足①】 ディオダディ、それともディオダティ?
  • 【補足②】怪奇譚を書くように提案したのはバイロンではない?
  • 【補足③】ディオダティ荘の怪奇談義の時系列について
  • ディオダティ荘の怪奇談義をモチーフとした劇や映画について

最初の吸血鬼小説の作者とバイロン卿との出会い

 前回は、バイロンが祖国追放となり、近親相姦の関係となっていた最愛の姉・オーガスタと涙のお別れをした11時間後に作った愛人・クレア・クレアモント*1に、スイス・ジュネーブへ行くことを示唆したところまで解説した。今回はいよいよ、「最初の吸血鬼」小説が生まれたきっかけであるディオダティ荘の怪奇談義について解説する。

 1816年4月、ついにバイロンが祖国を出る日がやってきた。随行者は、いつも身近に仕えていた忠僕フレッチャー、美少年の小姓ラッシュトン、雇ったスイス人の世話係、そして今回の主役、最初の吸血鬼小説を書くことになるバイロンの侍医、ジョン・ポリドリである*2

*1:クレアは何度か改名しているが、この記事では分かり易くするため、最後に改名したクレアで統一する。

*2:楠本晢夫「永遠の巡礼詩人バイロン」:三省堂(1991) p.214

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バイロンの吸血鬼の詩「異教徒」とバイロンの祖国追放【吸血鬼の元祖解説④】

シリーズ目次<(クリックで展開)吸血鬼の元祖はドラキュラではなく、吸血鬼ルスヴン卿こそが吸血鬼の始祖
吸血鬼ドラキュラより古い吸血鬼小説はこれだけある
最初の吸血鬼小説の作者ジョン・ポリドリと詩人バイロン卿、その運命の出会い
④この記事
『最初の吸血鬼』と『醜い怪物』が生まれた歴史的一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」
最初の吸血鬼小説と当時の出版事情の闇、それに翻弄される者たち
ドラキュラ以前に起きた「第一次吸血鬼大ブーム」・大デュマの運命も変えた
日本に喧嘩を売ったフランスの吸血鬼のクソオペラ

  • 実の姉と近親相姦の関係になるバイロン
  • バイロン卿による吸血鬼の詩「異教徒」
  • バイロンの娘は世界で最初のプログラマー
  • 離婚、そして国外追放へ

実の姉と近親相姦の関係になるバイロン

 前回の続きより解説する。不倫関係にあったキャロライン・ラムとどうにか分かれることができた後、バイロンは虚無感に襲われる。 そうした最中1813年6月のある日、ロンドンにいるバイロンのもとに腹違いの姉オーガスタ・リーが、シックス・マイル・ボトムより押しかけてきた*1

オーガスタ・リー
オーガスタ・リー
(1783~1851)
日本語wikipedia 英語wikipedia

 姉のオーガスタは、夫のリー大佐から家庭内暴力を受けていた。さらに経済的に困窮していた。夫がギャンブル狂いで競馬にハマっていたからだ。幼児3人抱えているので家計が持ちこたえられなかったので、弟のバイロンのもとに逃げてきた。この時まだ29歳。そしてバイロンに献身的に尽くす。彼女の官能的な優しさはバイロン好みでもあった*2

 ここまで言えば察せられたことだろう。バイロンは実の姉オーガスタと愛し合うようになる。それは傍目からみても恋人同士にしか見えないとか、愛人関係は公然たる事実だと言われるほどであった*3*4。そしてナポレオンが退位した8日後の1814年4月14日、オーガスタは娘のエリザベス・メドラ・リーを産む。この女児は姓が一応夫のリーとなっているが、世間ではバイロンの子と噂された*5。  メドラというミドルネームは、バイロンの作品「The Corsair:海賊」に登場する美しい愛人メドラの名前であるから、このあたりからも噂を助長する羽目になったのだろう。

*1:楠本晢夫「永遠の巡礼詩人バイロン」:三省堂(1991) pp.120-121

*2:同上 p.121

*3:同上  p.121

*4:「オーガスタ・リー」日本語wikipedia記事

*5:「永遠の巡礼詩人バイロン」 p.137

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