吸血鬼の歴史に詳しくなるブログ

吸血鬼の形成の歴史を民間伝承と海外文学の観点から詳しく解説、日本の解説書では紹介されたことがない貴重な情報も紹介します。ニコニコ動画「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」もぜひご覧ください。

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「現代的な吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が生まれるきっかけとなった「幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集」が発売されます

幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集
幽霊綺譚 ドイツ・ロマン派幻想短篇集


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最近かなり忙しくて、動画もブログも更新が止まってしまっています。今日は生存報告がてら、一つお知らせを。「最初の吸血鬼はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」ではなくて、ジョン・ポリドリの「吸血鬼」に登場するルスヴン卿」であることは、当ブログをずっとご覧になっている方々は言うまでもないと思います。ポリドリの「吸血鬼」が生まれたのはディオダディ荘の怪奇談義と呼ばれる一夜がきっかけです。ある晩、詩人バイロン卿の提案により、メンバーでフランス語訳されたドイツの怪奇譚集を朗読、その後バイロンが「一つ、自分たちでも怪奇譚を書いてみよう」と提案しました。


その結果、ポリドリは「最初の吸血鬼」となる小説「吸血鬼」*1を、そしてメンバーの一人であったメアリー・シェリーはかの有名な「フランケンシュタイン」を生み出すこととなりました。バイロンの戯れにより、西洋3大モンスターと言われる「吸血鬼」と「フランケンシュタイン」が一夜のきかっけで生まれたので、この出来事自体が映画や舞台になるほどです。詳しい経緯は上記に貼った過去記事をご覧ください。


さて、今回のお知らせとは、ディオダディ荘の怪奇談義と呼ばれる一夜で、バイロンが「自分たちでも怪奇譚を書こう」と提案するきっかけとなった、ドイツの怪奇譚集の日本語訳が、なんと明日2023年7月24日に、国書刊行会より刊行されます。


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この怪奇譚集がなければ、「吸血鬼」も「フランケンシュタイン」も生まれなかったかもしれない一冊の初の邦訳化。当ブログに起こしになるような方には、ぜひみて頂きたい一冊です。値段はお高いですが。せっかくなので、この怪奇譚集にまつわる話をいくつか紹介していきます。

*1:このときポリドリが作ったのは、正確には「頭が骸骨になった女の物語」であるのだが、この時バイロンが作った小説に触発されて後に「吸血鬼」を作ったので、吸血鬼が生まれるきっかけとして紹介される。

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【書評】幻の吸血鬼小説「吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴」(国書刊行会)第一巻の感想

吸血鬼ヴァーニー
吸血鬼ヴァーニー第一巻


2023年3月末、国書刊行会より「吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴」がついに刊行されました。この長編、もしかしたら一生邦訳にお目にかかれないと思っていた作品だったのですが、まさかこうして全訳されるなど夢にも思っていませんでした。一応、ツイッターで匂わせのツイートや、前回レビューした「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」には刊行予定であることがアナウンスされてはいましたが、実際こうして手に取ったときは感無量でした。今回はそんな吸血鬼ヴァーニーの第一巻のレビューをしていきます。ですがその前に、なぜ私がこれほどまでに待ち望んだのかを理解してもらうべく、これまでのヴァーニーという作品の立ち位置などを簡単に、まずは説明していきたいと思います。吸血鬼ヴァーニーもいずれは当ブログで詳しく取り上げる予定です。いつになるかはわかりせんが。あと解説の都合上、第一巻以外のネタバレもしていきますので、気になる方はご注意を。

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【書評】「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」の感想

怪奇幻想の文学2 吸血鬼

今回はレビューしようとしていてずっと機会を逃していた、2022年12月発売の新紀元社より刊行された「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」の感想を簡単に述べていこうと思います。2022年は5月に「吸血鬼ラスヴァン 英米古典吸血鬼小説傑作集」、8月には「吸血鬼文学名作選」が刊行されており、2022年は吸血鬼イヤーともいうべき程、古典吸血鬼小説のアンソロジーが刊行されました。ということで2022年を締めくくる本アンソロジーをレビューしていきたいと思います。レビューの性質上、大なり小なりネタバレがあるので、その点留意してご覧ください。


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「幻想と怪奇13」にて商業誌デビューしました:寄稿した内容の補足、典拠の紹介

H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照
H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照

私は2015年よりニコニコ動画で、2021年よりブログで吸血鬼解説活動を続けてきましたがこの度、商業誌に解説記事を寄稿することになりました。2023年3月2日発売「幻想と怪奇13 H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照」(新紀元社)の自由寄稿枠に、私の吸血鬼解説が掲載されております。こうした商業誌に寄稿するなど、当然初めての経験です。嬉しいやら恥ずかしいやらで形容しがたい気持ちですが、やっぱり商業誌に掲載できたことは、こうして啓蒙活動続けてきて良かったな思った瞬間でした。


ノセールというハンドルネームはニコニコ動画で投稿する上で、誰も名乗ってなさそうな名前にしようと思って適当に作ったものですが、流石に真面目な商業誌に載せるにはいささか似つかわしくないと思い、今回新たに白沢圭という筆名を名乗ることにしました。今後は両方で名乗っていきますので、お好きなようにお呼び下さい。ちなみに由来はニコニコ動画の視聴者ならすぐにお分かりになったかと思います。動画では東方projectに登場する上白沢慧音(かみしらさわけいね)が吸血鬼のスカーレット姉妹に吸血鬼の歴史を教えると言うスタイルをとっていますが、その上白沢慧音からとっています*1。一部の方には怒られそうですが、私の動画では顔役とも言えるキャラですので、彼女にあやかることにしました。


今回は「幻想と怪奇13」をご覧頂いた方向けに、今回の記事を作る上で参考にした主な典拠の紹介と、余談として、私がなぜ今回「幻想と怪奇」に寄稿することになったのか、そのあたりを紹介していこうと思います。今回の記事の内容は「幻想と怪奇13」をご覧になったという前提で話を進めていきます。

*1:東方projectを知らない方に簡単に説明すると、東方Projectとは同人シューティングゲームの一連のシリーズのこと。上白沢慧音は普段は歴史の編纂をしており、寺子屋でも授業を受け持っている。スカーレット姉妹は吸血鬼。東方は二次創作が盛んで、私のニコニコ動画の解説も東方Projectの二次創作という形をとっている。東方だと霊夢と魔理沙の「ゆっくり解説」が有名で、霊夢と魔理沙の主人公コンビが主流。逆に敵キャラのスカーレット姉妹、とくに慧音を出すのはゆっくり解説としてはあんまり見られないが、東方Projectにはスカーレット姉妹という吸血鬼キャラがいること、歴史を編纂しておりしかも寺子屋で教えているという設定がある慧音は、吸血鬼解説ではむしろ相応しいと思って選出した。

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当ブログを参考にした漫画「ペニー・フィクションで吸血鬼を殺して」の紹介とレビュー

 年末に嬉しい連絡がありました。とある方から、当ブログとニコニコ動画の内容を参考にした漫画が、商業誌の受賞作品に選ばれたとの嬉しいご報告を頂きました。もちろん、私のブログ以外にも様々なものをご参照されておりますが、商業誌の受賞作品の一助になれたことは、吸血鬼の啓蒙活動を続けてきた甲斐があったと思った瞬間でした。拝読させて頂きましたが、非常に設定が上手く、面白い作品でした。作者様により無料公開されていることもあり、当ブログをご覧になるような、吸血鬼にご興味がある方はぜひ読んで頂きたい作品でした。今回はその漫画を紹介と、個人的な感想も述べていきます。なお、今回一部紙面を公開しておりますが、作者様を通じて出版社様からも問題無いとの承諾を得て掲載しております。

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「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」発売と、ニコニコ動画で「謎の男」の作者判明の経緯解説の動画を投稿しました

本日、2022年12月1日に、新紀元社より「新編 怪奇幻想の文学2 吸血鬼」という吸血鬼アンソロジーが発売されましたので、その宣伝を。今年は5月に「吸血鬼ラスヴァン」、6月には東雅夫編「吸血鬼文学名作選」(いずれも東京創元社)と、今年は吸血鬼イヤーともいうべきほど、吸血鬼アンソロジーが発売される年であり、その最後が本日発売されました。


その中で個人的に一番注目していたのが、カール・アドルフ・フォン・ヴァクスマンの1844年の「謎の男」でした。これはずっと作者不詳として紹介され続けてきた作品であり、ハヤカワ文庫から1980年に発売された「ドラキュラのライヴァルたち」に収録された際も、当然作者不詳として紹介されました。作者が解明したのは、2010年のことです。その作者判明の経緯は、今年4月に当ブログで紹介させて頂きました。

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そんな思い入れのある作品が、本日発売の「怪奇幻想の文学2 吸血鬼」に収録、しかも作者をきちんとヴァクスマンとして公開するということで非常に楽しみでした。作者判明の経緯はブログで解説済みでしたが、今回のアンソロジー発売に合わせるべく、昨日11月30日にニコニ動画でも解説動画を投稿したので、ぜひご覧になってみて下さい。そして本日、件のアンソロを入手したのですが、非常に気になることが書かれていました。



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アメリカ版「浦島太郎」として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルにまで捏造に手を染めていたピーター・ヘイニング【捏造疑惑シリーズ⑩】

シリーズ目次(クリックで展開)吸血鬼小説『死者よ目覚めるなかれ』の作者はティークではなくて別人だった!本当の作者とは!?
(ヘイニングの不正を知る前の記事)
女性作家による最初の吸血鬼小説「骸骨伯爵、あるいは女吸血鬼」が捏造作品だったことについて
古典小説「フランケンシュタインの古塔」はピーター・ヘイニングの捏造?他にもある数々の疑惑
ホレス・ウォルポールの幻の作品「マダレーナ」が、別人の作品だった
女性で最初に吸血鬼小説を書いたエリザベス・グレイという作家は存在していなかった
ドラキュラに影響を与えた作者不詳の吸血鬼小説「謎の男」の作者が判明していた
ドラキュラのブラム・ストーカー、オペラ座の怪人のガストン・ルルーに関する捏造
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」の作者を間違えたのは、ピーター・ヘイニングではなかった?
吸血鬼小説「死者よ目覚めるなかれ」を1800年作と紹介してしまったのは誰なのか
【追補】吸血鬼小説「謎の男」の作者判明の経緯について
⑩この記事


生前、いくつもの古典怪奇小説を「発掘」「新発見」したとして有名になった、イギリスのホラー・アンソロジストの故ピーター・ヘイニング。彼は、その数々の「新発見」の実物を見せることはなく、その「新発見」した大半(もしくはその全て)が、彼による捏造である可能性が極めて高いと考えられている*1。ヘイニングの厭らしいところは、彼の捏造疑惑にはその殆どに逃げ道があり、彼の捏造であると完全に断定できないところだ*2。だが肝心のヘイニングも2007年に亡くなっているから、問いただすことはもうできない。これまでの記事を見てきた方にはお分かりになろうだろうが、彼の主張のせいで誤った説が長年流布してしまった。そして多くの研究者が多大な労力をかけて検証している。それを考えれば、彼の所業はもはや許してはならないとさえ思っている。


そんなヘイニングの疑惑は、私が知りうる限りのことはこれまでに記事で紹介した。以前、流石にもう打ち止めだろうと言ったが、また彼の捏造疑惑案件を発見してしまった。しかもそのうちの一つが吸血鬼の短編であるから、このブログの趣旨としては紹介せざるを得ない。そして判明した彼の捏造だが、アメリカ版浦島太郎として有名なリップ・ヴァン・ウィンクルについてまで捏造していたことを発見、これにはもう驚くしかなかった。最初その言及を見つけたとき、「リップ・ヴァン・ウィンクルほどの著名な作品を捏造なんてしたらすぐにばれるから、いくらヘイニングでもそんなことはしないだろう。流石に書き込んだ人の勘違いかなにかでは?」と思ったぐらいだ。だが実際調査したところ、ヘイニングは私の想像の斜め上のことをやらかしていたことを掴んだ。ということで、今回もヘイニングの数々のやらかしについて紹介していこう。最初はヘイニングの不正以外のことも言及していく。それは日本では知られていない吸血鬼作品の話題が含まれているため。このブログの趣旨と、そして何より個人的興味を引いた為、話の流れに沿って紹介させて頂くので、どうかご容赦願いたい。

*1:単純にヘイニングが間違えて紹介した可能性もあるが、それならそれで多くの作品で紹介間違いをしたことになる。そうなると彼の調査手法は非常にいい加減で、裏付けは一切取っていないということになり、また見直しもしていないということになる。一つ二つならまだ調査ミスで済むだろうが、あれだけ多く間違えているのであれば、まず彼による捏造であると疑ってかかるべきだろう。

*2:逃げ道があるといっても、肝心の証拠がない以上、実際はヘイニングの主張は根拠・証拠がないとしてつっぱねることができる。ただ彼の主張は嘘であると完全に断ずることもできないが。

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